部屋の中のカブトムシ④

それからも僕は、手を替え品を替え様々な広範囲被害を出そうと尽力した。

津波等の自然災害を人工的に引き起こしてみたり、他のMAP兵器も試してみたりといった具合に。


結論から言うと、全て止められた。

自然災害は既に対策がされていたり、MAP兵器に至っては全て、出してすぐ消滅に追い込まれた。


誰がここまでのことをしたかはもう分かっている。

あの女だ。

僕にはもう、疑惑が確信へと変わっていた。


そもそも地面に潜っているあの女の顔に見覚えがあったが、今思い出した。

なにかとテレビでもてはやされていた予言者だ。

もし彼女が本物ならば、僕の攻撃も全て予知していたのだろう。


物事には乱数、即ち可能性というものが存在する。

もしかしたらあの女はその現実の乱数を調整することができるのかもしれない。


「対人戦を行うときは、対戦相手の思考レベルに合わせろ」と僕は考えているが、未来予知の段階にまで上げられた思考レベルに、どう合わせていこうか。

それがこのゲーム最大の、攻略の鍵となるであろう。


しかし、本気で戦うことになるのはこのゲームの後半戦だ。

大規模殲滅が出来ない以上、まずは雑魚同士潰しあってもらって、盤面が動き、じゅくしたところで僕が中ボス、地面にいるもう一人の参加者を倒す。


最後にラスボス。

あの女を倒せさえすれば、僕はゲームクリアになるであろう。


それまで僕は、千里眼で状況を確認しながら、静観せいかんてっする。

さて、今はゆっくりさせてもらおう。


ゲーム内タイムが一日以上経過した頃、三度目のアナウンスが鳴り響いた。


『参加者が一人死亡しました。残り参加者は五人です』


やはり気長に待って正解だった。

ここまで面白い盤面はそうそうないだろう。

無限増殖しているテロリストが大量に跋扈ばっこし、NPCを無差別に襲ってやがる。


これは僕にとってまたとない好機。

僕は最初、人間を地上にいられない状態にしてから、地下にいる中ボス、あの若い男にハメ技をしようと思っていた。

だがそれは全部止められていた。

あのラスボス、地下にいる若い女によってだ。


だが今はどうだ?

地上はテロリストが占拠して、事実上人間が地上にいられない状態になっているではないか。

あの女が干渉できなかったのはあのルールのせいであろう。


『不特定多数の人間に注目して攻撃することはできない。誘導攻撃のターゲットは絞らなければならない』


ここまで増殖スピードが多くなってしまっては、あの女も手出しができなくなってしまったのだ。


僕のようにMAP兵器を使えば一掃いっそうは容易のはずだ。

だがあの女はそんなことはしない。

自らが有利に働くはずの、僕のMAP兵器を消し去るくらいだ。

くだらない矜持きょうじでも持っているんだろう。


しっかしテロリストもテロリストで面白い。

あれは『自我を自分が創造した人間に移したりすることも可能である』というルールを悪用して、自我自体を増殖分割させているんだろう?


さすがの僕でもそんなこと、思いついてもやろうとはしない。

そんなことしたら普通自我が崩壊してしまう。

明らかに狂気の沙汰だ。

あのテロリストは放っておいても、いずれ自滅するだろう。

それよりもまずは中ボスだ。


地面にいる若い男の部屋に目をつける。

地下室で完全に安心しきっているのだろう。

それとも、部屋にテレビを取り付けてしまっている弊害なのか、部屋は半径50cmをゆうにこえている。

そのおかげで、そいつの部屋の中に物質を生み出すということが容易にできた。


そして僕はその生み出した物質にも、少しの細工をほどこしている。


『創造、変更したものを透明にすることはできない』


というルールだ。

裏を返せば、のである。

さすがにこれは誰でも気づく。

今まで死んでいった三人の中でも、もしかしたら気づいているであろうレベルだ。


というわけで、僕は部屋に毒ガスを充満させた。


「対人戦を行うときは、対戦相手の思考レベルに合わせろ」


相手の思考レベルはわかっている。

こんなもん、ガスマスク等で簡単に対策される。


だから僕は毒ガスより先にもう一つあるものを作っていた。


『ただし、元から存在する物質・人物に直接的な変更(消滅含む)を加えることは不可能である』


『他人の創造した物質にもそれは適応される』


というルールの心理を付いた仕掛け、を作った。


さあ中ボスよ、大人しく潰されていけ。

ってなっても瞬間移動で逃げるわな普通。

だが、地上へはもう逃げられないだろう?


あそこはもうテロリストの巣窟だからだ。

地上に戻るといつそいつに殺されてもおかしくない。


だが、僕の場合はノーリスクだ。

僕はプレイキャラをまた作り、即座に逃げた相手の場所を割り出した。

そしてテロリストに殺される前に、さっさとそれを消滅させた。


ざっと千里眼で確認したが、今度は干渉されない半径50cm以内の壁か。

まあこれは即席だ。

壁の外側に毒を作ることで簡単に溶かせる。


こいつは、僕にすぐ見つかった焦燥感でもう逃げる気力を失っただろう。

後は、毒でジワジワ殺していくだけだ。


『参加者が一人死亡しました。残り参加者は四人です』


ゲームセット。

僕は中ボスを攻略した。







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