部屋の中のカブトムシ③

核兵器。

他にも強いMAP兵器はあるだろうが、これを選んだ理由は単に地上の殲滅せんめつができるというだけではない。

これには、参加者の思考レベルを試す役割も存在している。


核兵器なんてものは、この思考戦において真っ先に思いつかなくてはいけない存在だ。

これくらい、対処できなければ話にならない。


「対人戦を行うときは、対戦相手の思考レベルに合わせろ」


僕はそんなことを自分に言い聞かせながら、複数の核がこの世界に落ちていく状況を見守る。


しかしそれは、一瞬の出来事だった。

核を落とそうとした瞬間、それが消えてしまったのだ。

それも全部一斉に。


いや、正確には消えた訳ではない。

ほんの一瞬謎の生物が出現し、僕が作り出した核を食ってしまい、そのままその生物ごと消滅してしまった。


『不特定多数の人間に注目して攻撃することはできない。攻撃のターゲットは絞らなければならない』というルールだ。

確かに人間ではないが攻撃はターゲットしているだろう。

まさか各個撃破の要領で核を全部対処したのか?


面白い。

参加者の中には、相当に思考レベルの高い人物が少なくとも一人はいる。

もしかしたら、地下にいるあの女かもしれない。


奴の居場所は知っているが、僕が狙う気すら失せている。

この僕を一回、躊躇ちゅうちょさせている時点で奴の思考レベルは相当なものだろう。


次の計画はもう決まった。

さっき生物で対処されたということそれ自体を参考にする。

次に僕は、都市部に巨大生物を生み出した。


いや、生み出したというと少し語弊が生じる。

正確にはだ。


まずネックになるのは『自分と自分が生成した人間以外の人間の半径50cm以内に物質を生成させることはできない(変更は可)』というルールだ。そのせいで、地上に巨大生物を出現させるには最低でも二メートルの高さから落とすか、人通りの少ない場所から持ってくるかになる。


前者は、着地したときの音や衝撃、いわゆる視覚以外の情報量が多くなり、巨大生物がすぐさまバレてしまう。

そもそもの話、もし真下に参加者がいるなら、すぐ気付かれて何かしらの対策を取られてしまうだろう。

巨大な影がすぐ踏みつぶそうとしてくる状態を、気付かないままやられる参加者なんぞいないと僕は思いたい。


「対人戦を行うときは、対戦相手の思考レベルに合わせろ」とはよく言ったものだが、そのくらいの思考レベルなら僕が倒さずとも、他の奴が倒してしまうだろう。

まあ僕が倒せるなら倒しておくけれども。


というわけで前者はだめだ。

ならば後者は?今度は少し時間がかかりすぎる。


巨大生物なんて、さっさと都市部に出現させたほうがすぐ被害をだせる。

人のいないところからビームを出してたところで、被害は微々たるものだろう。


そこで第三の選択肢、『都市部に生み出した人間を巨大生物に変身させる』だ。

『自身の人間という形を著しく変更することはできない』というルールを逆手に取って、まさかの人間が変身。

参加者は思考が二、三手遅れるはずだ。


まあこれでも多少の音や衝撃は出るだろう。

だが、空中から着地するとき程ではないと僕は考えている。

一瞬の変身だ。

真下の生物に対応できる参加者だとしても、急に変身してきて横に潰される、なんて事態は想定していないはずだ。


というわけで巨大生物の降臨だ。

さて、とりあえずはビームでも出して、ここ一帯でも荒らしていくか。

そう考えた次の瞬間。

光輪、光の矢、その他色々が飛んできて巨大生物が即座に倒されてしまった。

僕はまだまともな被害を出せていないのにも関わらず。


『死亡した人物(NPC含む)は、その世界から消滅する』というルールだが、この場合だと出した巨大生物はどうなるのだろう。

まあ見ていればすぐわかる。


僕が変身させた巨大生物は、攻撃を受けやられると、すぐ消滅していった。

これもまた裏ルールか。

まだ生物が死んだら消滅なのか、元NPCが死んだら消滅なのか確定してはいないが、これは一応実験しておこう。


簡易的にネズミを作り出し、即殺す。

ネズミは消滅した。

確定だ。

『死亡した生物も、この世界から消滅する』が裏ルールだ。


この世界には人間以外の生物がいない。

家庭があるのを見る限り食べ物は生物扱いせずに存在しているっぽいが。


故にそんなものをルールに書く必要がなかったのだろう。

しかし、そんなことはまだどうでもいい。

問題は即座にやられた巨大生物だ。


視覚だけではどうしようもならないくらいの判断スピード。

まるで、この状況をしていたかのようだ。

こいつは面白くなってきた。

さて、この参加者をどう攻略していこうか。

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