CASE2.どこにでもいる普通の中学生

哲学的NPCゾンビ①


僕はどこにでもいる普通の中学生。

普通に登校し、普通の成績で、普通に友達と話し、普通に帰宅して、普通に就寝する。

それが僕の一日だった。


こんな僕に数少ない普通ではない点を挙げるとするなら、僕は常日頃から妄想をずっと行っているという点だろう。


ただその妄想も普遍的なもので、学校にテロリストが攻めてくる妄想とかそんな普通の人と大差ない妄想だ。


この普遍的な妄想は毎日行っている。

学校にテロリストが攻めてくる妄想はゆうに千回を超えていた。

これだけの数なら流石に僕の普通ではない点として挙げていいのだろうか。

それともみんなやっていたりするのだろうか。


僕はそんな妄想を小説に書き込む勇気もなく、僕の頭の中だけで進んでいくストーリー。

それでも、僕は常に非日常を求めているようで「学校にテロリストが攻めてこないかな」が次第に僕の口癖になっていた。


今日も朝早くに起き、登校の準備をする。


「はぁ、学校にテロリストでも攻めてこないかなぁ」


僕の普遍的な日常、その終わりを僕はいつも望んでいた。



「やっべー、遅刻だ」


僕はどこにでもいる普通の中学生。

突然だけどいきなりのピンチが襲ってきている。

そう、早く起きたにも関わらず、登校時刻に間に合わないかもしれないという人生最大級のピンチだ。

時間を確認しながら、僕は焦って家を出る。


「これは急がないと間に合わない」


僕は足が早い方ではない。

そして体力も常人並だ。

急いではいるがすぐ息が切れ、体力を回復させながら休み休み進んでいく。


「ちょっと近道しよう」


僕は、道を外れて路地裏を通ることにした。


「キャーーー」


進もうとした道の先に女性の悲鳴が聴こえてきた。

やっぱり路地裏は治安が悪い。

僕は来た道を少し引き返す。


もし僕に力があれば、いま聞こえたこの悲鳴の先に向かって立ち向かえるのだろうか?

いや、僕は妄想だけしているだけの一般人だ。

もし力があっても立ち向かうことはなく、引き返すだろう。


なにせ遅刻寸前なんだ、こんなところで足踏みしている暇はない。

僕は悲鳴のあった道を避けつつ、さっきより早足で学校へと向かう。


やっと学校が見えてきて、これならギリギリ間に合いそうだ。

僕はなんとか教室までたどり着き、そのままHRが始まった。

HR中に先生が、謎の巨大生物の噂を持ちだしてきた。

あくまで人づてらしいんだけど、見た人がいるらしい。


今日のHRはそこだけ少し変わっていて、他はいつも通りだった。

そして授業中、僕はいつもの妄想を開始する――。



「テロリストが攻めて来たぞー」


この学校にテロリストがやってくる。

僕のいる教室に向かってじわじわと。

みんなが逃げていく中、颯爽さっそうと立ち向かっていく僕。

教室に入ってくるテロリストがそのまま銃を乱射してくる。

そんなマシンガンの銃撃を避けていく僕。

銃撃が当たらないギリギリを狙っていきながら。

マシンガンの構造はもう頭に叩き込んでいる。

精巧な妄想をするために、日夜ネットでマシンガンを調べているんだ。

時には動画で勉強したりもしていた。銃の乱射映像を見ながら、避けるシミュレーションをする。そしてまた頭の中へ。


「ちくしょー、なぜ当たらない」


たじろぐテロリストに向けて強烈なアッパーを叩き込む僕。

この一撃でテロリストは倒れてしまう。

みんなが帰ってきて、僕を胴上げ。

めでたしめでたし。



――ここで妄想を一旦とめ、一呼吸を置く。

他にもパターンはある、それも無限に。

僕はまたしても頭の中の世界に潜り、妄想を開始する――。



廊下を歩いている僕は、不意にいつもと違う音を聞き分ける。

そして廊下のすみをくまなく探索、そこで時限爆弾を見つける僕。

まずは先生を呼び、自分にある程度の配線の知識があることを伝える。


緊張する心臓と同時に動いていく時限爆弾。

それをみんなが見ているなかで爆弾のコードを切り、処理。

爆弾は一つにだけではなく、他にもあるかもしれないとみんなに伝え、先生と一緒に校内の点検をすることに。


僕の耳と直感により、学校に仕掛けられた爆弾はすべて見つかる。

どれもこれも僕が処理していく、そして全部成功。

僕は一躍学校のヒーローになり、みんなから拍手喝采雨あられ。

めでたしめでたし。



――今度は何を考えようか?

テロリストの武器の別パターンだろうか。

僕は妄想をしている時が一番楽しく、唯一と言ってもいい僕の特技でもある。


しかし思い出したけど、今は授業中だ。

考え事をしすぎで授業の内容が頭に入ってこないというのは、僕の悪い癖だ。

これで何回やらかしたのだろう。

僕は慌てて黒板の文字をノートに書き記す。


「学校にテロリストでも攻めてこないかな」


いつもと何も変わり映えのしない、退屈な日常が今日も続いていた。

そんなとき、


『参加者が一人死亡しました。残り参加者は七人です』


得体のしれない幻聴が、頭の中に響き渡った。

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