ドラマチックツルギー⑥

実は俺は、お化けや幽霊の類がそんなに怖いわけではない。

怪奇小説はよく読むし、自分でも何回も書いたこもがある。


そもそも、「現実は小説よりも奇ではない」という考え方の俺からしたら、そんなものはなから信じてはいなかった。


だが、今日のお化け屋敷は一段と怖い。

なぜなら、この周りが見えない真っ暗な場所で、謎の殺気の相手から暗殺される恐怖に怯えなければいけなかったからである。


俺は彼女を連れてお化け屋敷を進む。恐る恐る一歩一歩慎重に。


「きゃぁーー」


彼女がおばけに驚き、俺に抱きつく。

強い密着で、俺の恐怖心は彼女がかき消してくれる。

いつ襲われるか分からない俺にとって、一番の癒しであった。


「君の方が怖がりじゃないか」


「ごめんなさい。私もおばけ苦手なんです。でもやっぱりあなたも身体が震えていますね」


それでも俺の震えは止まってなかったらしい。

この状況のおかげでなんとかごまかせてはいるが。

そのまま何事もなく、お化け屋敷からも出ることができた。


その後も、俺は彼女と遊園地の色々な場所を巡った。

その後も俺が狙われる、なんてことは一回もなく、暗殺の恐れはただの俺の杞憂きゆうだったようだ。


こんな素晴らしいデートがあったんだ。

付き合って一日目にして、彼女への恋心は最大値に達していた。


俺は最後に、観覧車に行こうと彼女に提案した。

彼女に渡したいものがあったからだ。

彼女と観覧車へと乗り込んだ。

一呼吸置いてから俺は、彼女に言い出す。


「俺と結婚しよう」


俺は懐から、生成したダイヤの指輪を彼女の前に差し出す。


「はい、もちろん!!」


彼女は泣いて喜んでいる。そして、彼女も話を切り出した。


「キスがしたいので、目をつぶってもらえませんか?」


俺は彼女の提案に乗る。

俺はそろそろ大丈夫であろうと、今まで着けていたヘルメットを外し、目をつぶりキスを待つ。


「ズドン」


一瞬何が起きたか分からなかった。

この音を思い出し、突然銃声が鳴り響いたことが理解できた。

隠れていた敵は、俺がヘルメットを外すを待っていたのだろうか?

落ち着いて今の状況を確認すると、俺の眉間に銃弾が直撃していることが感じられた。


俺はまだ暗殺を考慮して、頭の内側を固めに変化させていたのにだ。

今まで何もなかったとはいえ、最低限の警戒だった。


だが、この感覚は銃弾が貫通している。

意識が朦朧としてきた。

この意識では、俺はもう想像による創造の能力は使えないだろう。


俺はおもむろに目を見開く。

彼女の手元に銃が見えた。

俺がチンピラに最後に食らわせた貫通弾の銃そのままであった。


そう、感じていた殺気の正体は彼女だったのである。

薄れゆく俺の意識の中で、ミステリー小説のような走馬灯そうまとうがよぎり始めた――。



彼女は参加者であり、既に何かしらの参加者達を見つける方法を見つけていたのだろう。

そして、俺が出るのを見計らってチンピラを自ら作り、自分に襲わせた。


俺がチンピラを呼び止めたのをいいことに、彼女はその場で逃げる振りをし、参加者のように見せかけるチンピラを遠隔操作し、バトルさせた。


なぜこんな回りくどいことをしたか?

おそらく俺の実力を見るためだろう。


俺は狙い通りに手の内を晒し、千里眼で見ていた彼女は暗殺の計画を練る。

そして、俺がとどめの攻撃をすると同時に、彼女は見つけていた他の弱い参加者を殺したのであろう。


参加者の死亡、そのアナウンスに騙された俺は、下心のままに彼女の元へとおもむく。

彼女は、向かってきた俺に対してシメシメと思いながら、俺に告白をする。


そこからデートを行い、俺の警戒心を少しずつ、少しずつ緩ませていく。

俺の警戒が完全に緩みきったところで、キスの提案をし、俺に目をつぶらせる。

そこに向かって、俺がチンピラとの戦いで見せた貫通弾を使い、俺の眉間を撃ち抜く。

これがこのデスゲームの顛末である。


もしこの話に役があるとしたら、彼女が主人公で俺が脇役なのだろう。

これは彼女の劇場で、俺はただ彼女の為にドラマチックな役割ロールを演じていただけにすぎなかった。


ほらな、やっぱり俺が小説のような劇的なことをできるわけがなかったんだ。

「現実は小説よりも奇ではない」のだから。

俺はそのまま意識が消えていった。


『参加者が一人死亡しました。残り参加者は六人です』

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