ドラマチックツルギー⑤

またも俺の過去を思い返してみると、俺は一度たりとも女に惚れられた試しがなかった。

顔が悪いのは百も承知だ。

だが、他にもなにか悪い要素はあったのだろうか。


「現実は小説よりも奇ではない」


俺に自発的に惚れてくる女性を待ち続けるのは、それこそ小説の読みすぎだ。

だが、現実に今目の前の女性が告白してきた。


ここで言う現実というのは、現実世界ではなく、NPCがはびこるこの世界での現実である。

この世界のNPCは現実の人間と遜色ないのだから、現実世界で告白されたと言っても過言ではないであろう。


ともかく、初めての彼女ができた。


「俺、恋人できたことないから何をすればいいか分からないや」


「え、そうなんですか?こんなにイケメンなのに。むしろ私がダメ元で告白したんですよ?恋人とはデートをするものです」


知らなかった。

告白されて初日でデートをするのが恋人の常識だったのか。


「ぜひ、やりましょう!!」


俺は変なテンションになっていた。

これはガッツキすぎたのかもしれないし、これで嫌われたかもしれないと、そこまで俺は考えてしまった。

彼女いない歴が年齢の俺は、一言一句失言を恐れてしまうのであった。


「ふふふ」


彼女は笑っていた。

自作小説でメインヒロインにしてしまいたいほどの可愛さだった。


「あの、デート行くとしたらどこへ」


「やっぱり遊園地に一緒に行きたいです」


「それはいい、行きましょう!!」


遊園地デート、なんといい響きだろうか。

一人遊園地などという言葉もあったりはするが、俺は一度も行ったことがなかった。


小説家なら一度は行っておけと言われそうだが、俺には一人で行く勇気なんてなかった。

それが今はどうだ。


チンピラに襲われていたメインヒロインのような可愛さの女性、それを俺が助けてまた会ったときには即告白された。

そしてそのまま遊園地デートである。


「現実は小説よりも奇ではない」という、そんな俺の口癖をかき消すような出来事の連続であった。



遊園地に到着、と共に少しの不安が襲ってきた。

小説や漫画でしか情報を知らないが、よくよく考えるとこの施設、暗殺されやすい場所多すぎないか?


浮かれていたが今はデスゲーム中。

もし参加者が俺を見張ってて、油断したところを暗殺しようとしたら?


いやでもそんなこと今更考えたって仕方がない。

現実は小説よりも奇ではないんだ。

だが少しだけでも対策はしておこう。


「ちょっと待ってて」


俺は彼女と離れつつ、最低限の装備をした。

全身には、彼女に見えないように中に着た防刃兼防弾チョッキ。

顔はフルフェイスヘルメットを装着。


ヘルメットについて、彼女にはどう伝えようかと考えたが、丁度近くにジェットコースターがある。

脱線して落ちるのが怖いとでも伝えておこう。


よし、完璧だ。

俺は彼女の元へと戻った。


「なんですか?その格好」


彼女は笑っている。ここまで想定内だ。


「ほら、この機械が脱線して落ちるのが怖くてさ」


「それって、あまり意味ないんじゃないですか?そもそもこれってよっぽどじゃないと落ちませんし、落ちたところでヘルメットくらいで助かるとも思えませんよ」


彼女はずっと笑っている。

よくよく考えたらそれもそうだが、俺はその笑顔が見れただけで満足だった。


そしてジェットコースターの列に並んだ。

平日なこともあり、待ち時間はほとんど無いようであった。

NPCもそういうところには忠実なのだろう。

そこからジェットコースターに乗った。


体にズシンと来る重い感じが襲った。

それに対し、俺は一瞬攻撃されたことを疑ったが、ジェットコースターとはそういうものだと、俺は小説の表記を思い出した。


その後もジェットコースターは加速と減速を繰り返し、そのまま俺の警戒は杞憂きゆうに終わり、ジェットコースターは何事もなく終点へと辿り着いた。


「まだヘルメットを着けているんですね」


「今度はお化け屋敷に行こうと思って、俺おばけ苦手でさ」


「それなのにお化け屋敷行くんですか?」


彼女は驚きながら笑っていた。

よく笑う子だ。俺はよく笑う子が昔からタイプだった。

それを踏まえても俺にこんな彼女ができるなんて、本当に現実は小説よりも奇のようだ。


だが、俺のこの言葉には多少無理があったかもしれない。

だが仕方ないのである。

俺はジェットコースターの途中から謎の殺意を感じ取っていたのだから。


ヘルメットを被ろうと思ったのは偶然なのだろうか、それともその殺意に無意識下で気付いたからであろうか、俺はこのヘルメットを外せなくなっていた。


次はお化け屋敷。

俺は彼女と共にお化け屋敷へと向かった。

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