哲学的NPCゾンビ②

参加者?残り七人?何の話なんだろう?

もしかしたら、僕は気づかない内に何らかの陰謀に巻き込まれてたりするのだろうか。


『一人死亡しました』とかいう物騒なワードも聞こえていた。

金持ちが適当な人間八人を選んで殺しあいでもしているのだろうか。


そんなことを考えている間に次の授業が始まる。

授業の間、また僕は妄想する。

バトルロワイヤルデスゲーム、あまりしたことのない妄想かもしれない――。



この学校で、水面下で行われているデスゲーム。

それに僕は選ばれてしまったようだ。


この学校で無造作に八人の生徒を選び、他の参加者の名前を明かさず、殺し合いをさせるという趣味の悪いデスゲーム。

このデスゲームに優勝したものは、何でも願いが叶うという世にありふれたデスゲーム。


誰がこのゲームを仕組んで来たのだろうか?

世界政府か、地球に侵略してきた宇宙人か、はたまた僕の想像することすらできない上位存在か。


無造作に選ばれた八人の生徒。

それぞれが参加者と呼ばれ、個人個人で呼び出され、ルール説明が行われた。


ただ一人、僕は例外であった。

僕も参加者に選ばれ、みんなと同じように殺し合いをするデスゲームに巻き込まれた。

だが、存在感の薄い僕はぞんざいに扱われ、運営がルール説明を忘れたままゲームが始まってしまったのだ。


このデスゲームに選ばれた生徒は、他の参加者を探しにいく。

ただし、自分が参加者だと悟られぬように。


参加者の一人――ここからは生徒Aと置いておこうか――が他の参加者を見つけた。

生徒Aは気づかれないように恐る恐る近づき、そいつを殺してしまったのだ。


生徒Aは、殺しなんて初めての体験だった。

いつまでも残る手の感触と血の臭い、生徒Aが後悔するのに十分すぎる感覚だった。


生徒Aの脳内にアナウンスが流れる。

『参加者が一人死亡しました。残り参加者は七人です』と。

そのアナウンスを聞いて、生徒Aは安堵あんどする。


「ああ、自分の行いは間違っていなかった。これはゲームなのだから」


そのアナウンスを聞いていたのは、生徒Aだけではなかった。

そう、他ならぬ僕自身である。

招集をハブられた僕は、このアナウンスで初めて気づく。

「何かヤバいデスゲームに巻き込まれた」と。


ただ僕には武器があった。

この持ち前の平凡さだ。

僕はこんなわけのわからないアナウンスを、さっさと頭の片隅にしまいこみ、普段の生活へと戻る。


その後も校内でデスゲームは続く。

だが僕には関係ない。

僕はあくまで平凡で一般の部外者だからだ。


僕の知らないところで、突然デスゲームは終わりを告げた。

最後は相打ちにでもなったのだろうか、それとも参加者が見つからず自殺したのだろうか。


何にせよ僕には関係のないことだ。

そして運営は僕を巻き込んだことを忘れたままこの学校を去っていくのであった。

めでたしめでたし。



――この妄想は、我ながらよくできていた。

アナウンスの幻聴は聞こえていたんだし、本当にこんなことが開催されているのかもしれない。


普通に考えて、僕が妄想に入り込みすぎたせいで幻聴が聞こえただけなんだけどね。

でもこの妄想は面白い。

僕の最高傑作かもしれない。


群衆の中に紛れ込んでいる参加者を探して殺すデスゲーム。

参加者はあらゆる手段を使ってバレないように参加者を探していく。


そんな殺伐とした雰囲気の中、何食わぬ顔でいつも通り生活する僕。

参加者は僕を見つけられず、そのまま僕が優勝してしまう。


こんなデスゲームが開催されているのなら、実に面白そうだし実にやってみたいものだ。

おっと、長く妄想に浸りすぎてしまった。

早く黒板の文字を書き込んでいかなければ。


ギリギリセーフで授業が終了。

妄想し続けて授業が終わる、それが僕という人間の毎日。


「はぁ、どこかでデスゲームでも開催されてないかなぁ」




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