ドラマチックツルギー③
参加者達は日本のランダムな位置から始まり、他の参加者に身元は知らされない。
そんなルールでいきなり参加者と鉢合わせるなんて、ついているのかついていないのか、俺にはまだわからなかった。
顔を変え、瞬間移動で遠くに逃げることも可能であろう。
だが、本当にそれでいいのだろうか。
もし既に、相手が何らかの索敵手段を見つけていたら?
俺がぱっと見で分からない発信機を相手が生成していて、俺に既に付けていたら?
想像が全て創造できるルール。
全ての可能性を用心するにこしたことはないだろう。
俺はここで戦う事を決めた。
幸い、このチンピラとはまだ距離が離れている。
俺は小手調べも兼ねて、手にハンドガンを生成する。
『不特定多数の人間に注目して攻撃することはできない。誘導攻撃のターゲットは絞らなければならない』
ルールの一つにこういう文言がある。
裏を返せば目の前の一人をターゲットに、相手の場所に向かって動き続ける誘導弾を放つことさえ出来る。
俺は、まだ俺の考えが分かっていないであろう目の前のチンピラに当たるように、ハンドガンから銃弾を放った。
俺が銃弾を放つ、と同時に俺の目の前にいたチンピラが忽然と姿を消した。
消えた!?
否、このルールでは瞬間移動が簡単にできる。
銃弾が俺の手元にゆっくり戻ってきて後ろへと進む。
敵が大々的な移動をした場合に、弾の軌道がわかるようにしておいた。
ということは、チンピラは俺の後ろにいる!
俺は、元いた位置が綺麗に見渡せる所まで、瞬間移動で離れる。
俺の元いた場所に、腕の一部が鋭利な刃物と化したチンピラが見えた。
これは、俺が瞬間移動していなかったらその時点で終わりだった。
自身を変えるというのはここまでできるとは。
そこまでの発想は、顔を変えただけの俺には及んでいなかった。
避けていなかったら、危機一髪の状況だったであろう。
だがそんなピンチも好機だ。
まだ銃弾の効果は残っている。
チンピラが俺の近くへ瞬間移動した結果、銃弾との距離は近づいている。
『自身の人間という形を著しく変更することもできない』
そういうルールだ。
これがどこまで適用されるかは分からない。
腕の一部を鋭利な刃物にすることが可能ということは理解したが、身体を変えて防がなきゃいけないこの状況、どう対処する?
銃弾を目前にチンピラは、全身を鉄に変えたように見えた。
俺の放った銃弾は、チンピラに少しだけ当たった後、勢いが消えすぐ落ちてしまった。
全身を鉄に変える、自身の変更である。
さて、相手はどこまで変えた?
俺は自身の能力で再現してみる。
とりあえず全身を鉄に変えてみるのである。
結論、皮膚の表面までは変えられたが、内側までは変わらなかった。
おいおいおい、そのくらいの制約があるとはいえ、そこまで変えることがありならこの戦いに決着はつかないんじゃないのか?
瞬間移動と肉体の硬質化での防御、その時点でイタチごっこは確定だ。
さて、どうしたものか。
『抽象的すぎる物質を作り出すことができない』そういうルールも存在していた。
これは全能のパラドックス、所謂矛盾を止める為のルールであろう。
例えば、ありとあらゆるものを貫通する銃弾なんかも作る事はできない。
なぜなら、同時にありとあらゆるものが貫通できない鎧なんかが作れてしまったら、簡単に矛盾が生じてしまうからだ。
だが俺は日本一の小説家だ。
執筆資料の為に化学や物理学、その他論理的なあれこれは既にそこら辺の一般人、いやちょっとした学者よりは知っていると自負している。
ならば論理的に相手の攻撃を避けていき、論理的に相手に致命傷を負わせてやる。
俺は散弾銃を作り出し、相手に誘導するよう銃弾に命令をしておき、大量に放つ。
馬鹿の一つ覚え?
これは相手の移動を感知する目的でもある。
また鉄で防がれるだけ?
今度は鉄を貫通する動きを追加した誘導弾だ。
抽象的になりすぎないように俺は自分の知識を使い、論理的にその弾を作り上げた。
このチンピラは、とりあえず鉄の壁を作り出したが、これは貫通弾。
そんなものは容易く貫く。
そんな弾を見て、短く瞬間移動を繰り返していく相手だったが、ついに観念したようだ。
相手は自身の周りに高熱の炎を作り出して銃弾を溶かし、多少貫通したとしてもダメージがほとんどない状況にしてから、誘導弾を当たりにいった。
まあこうなるだろう。
このゲームはなんでもありなんだ、この程度想定済みだ。
見せてやるよ、小説家であるこの俺の論理力と想像力を。
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