ドラマチックツルギー②

「なんっじゃこりゃあぁー」


 俺は再度鏡を確かめる。

 確かに、今イメージした顔になっている。

 そうか、ここはまだ夢の中か。


 だが、もしこれが本当になら?

 俺はソファーに座り腰掛ける。


「出ろ、ポテチ」


 俺の手元にポテトチップスが出現した。

 今度は手を使わずに開けてみると、袋がひとりでに開いていった。

 これは面白い。


「ふぅ~食った食った」


 ゆっくりポテチを食べ終わった後、俺は残ったポテチの袋を消してみることにした。

 俺が念じると袋は跡形もなく消滅した。


「これはすごい能力だ。色々実験してみる価値がありそうだ」


 まず気になっているのは、現存する物質の直接的な変更の禁止。

 これがどこまで適用されているのか、検証しなければならない。


「ポテチよ、ゲームになれ」


 俺はまたポテチを作り出し、まず作り出した物質の変更を確かめる。

 ポテトチップスは、よく遊んだゲームへと変化した。


「問題は現存の物質だな」


 手に持ったゲームを消し、検証を再開する。


『元から存在する物質・人物に直接的な変更(消滅含む)を加えることは不可能である』


 このルールの確認だ。

 ルール通り、生成した物質は好きなときに消すことができた。

 これも順当に理解。


「ソファーよ、ベッドになれ」


 何も起こらなかった。

 見た目が近しいような存在への変化だとしても、能力で生成してない物質は変わることがないようだ。


「ソファーよ、動け」


 俺は念動力をイメージし、動かしてみることにした。

 直接的な変更、その範囲の確認である。

 ソファーはなんてことはなしに、そのままのたたずまいであった。


「今度は」


 ソファーの真上に、天井で吊ったクレーンゲームのアームをイメージする。

 イメージの生成物であるのでちゃんとアームが出現した。

 そのアームでソファーを掴み、天井近くまで持っていく。

 すると、ソファーが上に上がっていった。


「直接的な干渉は無理でも、このようにすれば直接干渉に近づけることは可能か」


 検証は次の段階へと突入する。

 今度は人間の創造である。

 俺は理想のタイプの女性を思い浮かべ、出現させてみることにした。

 すると、すぐさま目の前に女性が現れた。


 この女性に対し、まず動きを思い浮かべてみる。

 この女性は、俺のイメージした動きを律儀りちぎに繰り返した。


 次は発声だ。

 作った女性に適当な言葉を言わせてみることにした。

 その女性は、一言一句間違いなく俺の考えた言葉を代弁するように発した。


 今度は少し命令を入れた状態で、自由意思を持って動くようイメージしてみる。

 その女性は、俺の強いイメージの必要なしに、まるで人間のように動き始めた。


「駄目だ。こんなことやっても虚しいだけだ」


 小一時間経過後、俺は我にかえり、この検証で出した女性を消滅させた。


「やっぱり、自分で惚れさせなければ意味がない」


 現存の人物に変更を加えることはできない。

 用意されている一億人のNPCにもそれは適用されているであろう。


 元々そのNPC達は普通の人間と全く同じように動く。

 ならばそのNPCの女性を惚れさせることは、自己満足ではなく俺がその人に認められたことになる。


 俺が顔をイケメンに変えたことは少しずるいが、生身の人間相手なら俺自身も納得できる恋愛ができる。


 この広い日本中に、たったの八人が完全ランダムに配置されているとしたら、参加者とそうそう遭遇そうぐうすることはないだろう。

 俺は出会いを求めて玄関から外に向かった。



 辺りを散歩していると、周りに様々な人物が見えてきた。

 この人達の中で俺だけが自由に色々なことができる万能感。

 俺は、自分が神になった気分であった。

 そのまま俺は、少し都市部の方までやってきた。


「キャーーー」


 女性の悲鳴が聞こえる。

 俺は声がした路地裏の方へと向かった。


「グヘヘ、大人しくしておけよ」


 絵に描いたようなチンピラが、今まさに女性に乱暴しようとしている。

 俺は手からナイフを作り出し、それをチンピラに向かって投げることにした。


「ぐぇ、いってぇ」


 チンピラは女性を手放し、女性は外へと逃げていった。


「手に傷ができちまった。お前、無からナイフが出てきたように見えたが、もしかして参加者か?」


 チンピラの手の傷がみるみるうちに消えていく。


「こんな簡単に見つかるなんてよ、ついてるぜ」


 チンピラが俺にそんなことを言い放つ。

 えぇ……どんな天文学的確立だよ。

 俺がチンピラに襲われた女性を助けようとしたら、そのチンピラが広い日本中に八人しかいない参加者で、今俺を殺そうとしているなんて。


「現実は小説よりも奇ではないはずなんだ」


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