CASE1.小説家

ドラマチックツルギー①

 俺は売れっ子web小説作家だ。

 なんとはなしに書いた小説が衆人の目にとまり、書籍化、コミカライズ、アニメ化までトントン拍子で進んでいった。

 それも一作や二作ではなく、俺の書いた全てのweb小説がその黄金ルートを辿っていたんだ。


 書く小説も王道な異世界ものや学園ハーレムラブコメ、奇抜な小説など 様々なジャンルに手を出し、全てが成功だった。

 俺は日本で一番売れた小説家だと自負している。

 だが、俺はそんな状況でも物足りなさを感じていた。


「現実は小説より奇ではない」


 そんな言葉が俺の口癖だった。

 俺は小説のような冒険をしたかったのである。

 チート能力を使った俺TUEEE、多彩なヒロインとのハーレム生活、数       多く起きる想像だにしない出来事。

 何もかも俺の身近に起こったことはなかった。


 どれだけ成功してても顔は醜く、失敗が怖くて整形にも手が出せない。

 彼女の一人も俺にはできなかった。


 そこそこ裕福な家で好きな食べ物を貪る生活。

 そんな毎日であった。

 そんなときだった、俺の頭の中から声がしたのは。


『理想の世界を目指してみませんか?』


「誰だ!」


 俺は家の周りをぐるりと見回した。

 しかし、人の気配すらどこにもなかった。


『私は、あなたの世界でいう神のような存在です。あなたは、人並み外れた想像力をお持ちですね。その想像力を使ってある大会に申し込んでみませんか?』


 俺はこの声に対して二つの仮説を考えた。

 一つ、実現しない妄想ばっかし続けて、ついに俺の頭がおかしくなった可能性。

 正直この可能性がの方がすこぶる高い。


 もう一つは、本当に俺の作家としての天才性を見越して神が蜘蛛の糸を 差し出した可能性。

 こんなもの、考えたとしても現実にしては出来すぎている。

 現実は小説よりは奇ではない。

 俺は前者の方向性で結論づけた。


『妄想じゃないですよー』


 そんな声が俺の頭に鳴り響く。

 気づくと俺の身体はプカプカ浮いて、見慣れた部屋が見えた視界は、無機 質な宇宙空間のような世界を映し出した。


「幻覚まで見え始めた。ここまで俺は重症だったのか」


『そこまでかたくなならもういいです。勝手に話を進めていきますから』


 俺の脳内の幻聴が少しねているように感じた。

 しっかしこの幻聴はライトノベルのキャラに出てきそうな喋り方をしている。


『あなたはとあるゲームに選ばれました。そのゲームで殺し合ってもらいます』


「デスゲームってやつか?だったらパスだ。例え優勝で理想の世界を手に入れられるとしても、負けたら死ぬだろ?俺は命が惜しい」


『あなたは「自分の想像が実現化する能力」を使って、他の参加者達を倒してください。なお、全員の場所はランダムに選ばれ、参加者は誰か伝えられず、どこにいるかも不明です』


 待てよ、その条件ならその『参加者』とやらにバレずに、その「自分の想像が実現化する能力」で自分の理想の世界を実現することも可能ではないか?


『舞台は私達が作り上げた仮想地球の日本で行います。そこから出ることはできません。一億人いるNPCから他の参加者七名を探して倒しちゃってください』


 裏を返せば、俺はその一億人のNPC相手に好き勝手できるということか。まるでライトノベルのような劇的な世界まで。


『詳しいルールは脳内に直接送ります。脳内に叩き込んでおいてください。あなた様のような天才的な想像力ならすぐに理解するでしょう』


「自分の想像が実現化する能力」にしては思ったより制約が多い。

だが、俺の理想の世界くらいなら、簡単に実現できそうだった。


「分かった、参加してやるよ。どうせ俺の脳内の妄想に対して言ってるから俺がむなしいだけだが」


『では八名の参加者が決まるまで待機しましょう。もうすぐ決まるはずです』


 それを聞いた俺は始まりを待つ。


『八名の参加者が決まりました』


 少し時間を置き、宇宙空間のような場所で俺の脳内に声が響いた。


『では仮想地球の日本に送ります。5、4、3、2、1』


 俺の新しい生活が始まった。


 気づくと俺は、自宅のソファーに座っていた。


「なぁんだ、やっぱりただの夢だったんじゃないか」


 俺は、ちゃんと目を覚ますため洗面台に向かう。

 洗面台で自分の醜い顔を鏡で見ながら俺は独り言をつぶやく。


「せめて顔がな、イケメンなら俺はモテるのにな」


 俺は理想の顔面を思い浮かべる。

 すると鏡に、自分が思い浮かべたそのままの顔がうつった。

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