第19話 ロボットオタク、Oh! my god

 目を開くと、目の前に女子の可愛い寝顔があった。


「――っ!」


 驚きのあまり、叫びそうになって慌てて自分の口を押さえる。

 熟睡しているようだから、起こしちゃマズい。

 いつもは寝起きが悪いオレだが、今回ばかりは一発で眠気が覚めた。

 驚きすぎて、綿入りの箱から転がり落ちた。


「痛い……」


 しかも予想通り、足は筋肉痛になっていた。

 落ちた衝撃で、昨日打った背中が痛む。


 そうだ、思い出した。

 綿入りの箱はひとつしかなかったから、フェーもここで寝るしかなかったんだ。

 まさか、裸同然の女子とベッド(?)を共にすることになろうとは。

 まるで、えっちした後みたいじゃないかっ! 


 オレの頭の中では、あ~んなことやこ~んなことのエロ妄想が大暴走。

 あ、ちょっ、ヤバい! ヤバいって!

 何がって、下半身が。

 トイレトイレって、おいっ! ここ、トイレないんだけどっ!

 小とか大とか、どうすればいいんだよ?

 ひょっとして、床に落ちているB六用紙の上でしろとか、そういうこと?

 いやいや、ないないっ!


「あ、おはよー」


 オレがオロオロしているうちに、フェーが起きたようだ。


「おっ! おぉ、おはようっ!」


「どうしたの? 顔色悪いわよ?」


「うん、あの、さ。しょん○んしたいんだけど、どうすればいいのかなって」


 恥ずかしさに耐え、落ちている紙で下半身を隠しながら言った。

 すると、フェーはこともなげに答える。


「ここですれば良いじゃない」


「出来るかっ!」


 顔を真っ赤にして思わず声を張り上げると、フェーは驚いたように目を見開く。


「なんでよ?」 


「だって、しょん○んだよ?」


「何度も言わなくたって、分かってるってば」


 フェーは唇を尖らせて、両手を腰に当てた。

 オレは、イヤイヤながら口を割る。


「恥ずかしくて、出来ないよ」


「は? なんで?」


「なんでって、フェーは恥ずかしくないのっ?」


「恥ずかしくなんかないわよ?」


 フェーはワケが分からないとばかりに、しきりに首を傾げている。


「あたしは、これからするけど?」


「えぇっ?」


 オレが驚くと、フェーは不思議そうにまばたきを繰り返す。


「何よ?」


「するんだ?」


「当たり前じゃない」


「え、あ、うん。食べたり飲んだりするんだから、当たり前だよなっ。うん。じゃ、むこう向いて、耳ふさいどくから」


 オレは早口でくし立てると、慌てて両耳をふさいで、フェーに背中を向ける。


 なんで、あんなに堂々としてるんだ?

 女子ってもっと、こういうことをイヤがるもんじゃないのか?

 恥ずかしがるオレの方が、おかしいみたいじゃないか。


 数十秒後、肩を叩かれて飛び上がるほど驚く。


「わぁっ!」


「終わったわよ?」


「あ、うん。そうなんだ?」


「君はいいの?」


 不思議そうにフェーが、オレの顔を覗き込んできた。

 気まずさと我慢の限界で、イヤな汗が流れる。


「うぅ……」


「我慢してると、体に悪いわよ?」


「わかったよっ! するよ、すればいいんだろっ! でも、こっち来んなよ! 絶対こっち見んなよっ?」


 ヤケになって声を張り上げながら、オレはケージの角っこまで移動した。


「はいはい、さっさとしてらっしゃいよ」


 呆れた様子で、フェーは背中を向けた。

 落ちている紙を寄せ集めて、その上にしゃがむ。

 しゃがんだ時、筋肉痛の足がズキリと痛んだ。

 思わず、顔をしかめる。

 うーむ、回し車恐るべし。

 ズボンを下げようと思って、気が付く。


「そうだ、スカートだった」


 しかも、パンツも穿いていない。

 常にフルチン状態で、変態もいいとこだ!

 今自分がしている格好を思い出したら、どうしようもなく恥ずかしくなった。


「くそーっ! こんな恥ずかしい思いをさせられるなんて、思ってもみなかったよ! 恨むぜ、ロボットっ!」 


 オレはシースルーワンピースをたくし上げて、用を足した。

 女子がすぐ側にいるのにっ!

 出した物を紙で包み隠して、別の紙で尻と手を拭いた。

 尻を拭くには、紙が硬い。

 紙の硬さは、新聞紙ぐらいだ。

 トイレットペーパーは、別で用意して欲しかったな。

 出来れば、トイレも。


 エサ箱のそばに座っている、フェーの元へ戻る。

 といっても、ケージの中だからそんなに離れてないんだけどさ。


「終わった?」


「こっち見なかっただろうな?」


 疑心暗鬼でいっぱいになりながら問うと、フェーはいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「見て欲しかった?」


「そんなワケあるかっ!」


「あははっ、ウソよ」


 オレが顔を真っ赤して怒鳴ると、フェーは楽しそうに声を立てて笑った。

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