第18話 ロボットオタクのロンリーララバイ

 水入れの横には、同じような大きさの箱がもうひとつある。

 中には、頭くらいの大きさで、厚さ二センチのまるくて薄茶色い物体。

 それが、箱いっぱいに入っている。


「これなんだろ?」


「食べ物じゃないの?」


 フェーはひとつ手に取って、クンクンといでいる。

 オレは、見たことのない食べ物に警戒する。


「食べても平気かな?」


「食べてみたら?」


 フェーがいじわるく笑ったので、オレはカチンときて怒鳴る。


「何で、オレばっかりっ!」


「最初に話を振ってきたのは、君でしょっ!」


「さっき、オレが実験台になったんだから、今度はフェーの番だろっ!」


「もうっ! しょうがないわねぇ!」


 フェーは唇を尖らせた後、大胆にかぶり付いた。

 フェーの口から、ボリボリと音がする。

 一度にたくさん口に入れたから、頬が膨れている。

 本物のハムスターみたいで、可愛くておかしい。

 時間を掛けて、それを噛み砕いて飲み込むと、フェーはにっこりと笑う。


「なかなか美味しいわよ」


「ホント?」


 恐る恐る、薄茶色の物体を少しかじる。

 口に入れた瞬間、ふわりと香るビスケットみたいな匂い。

 薄味だが、確かに感じる塩気と甘味。ボリボリとした、堅い歯ごたえ。

 いつだったか防災訓練で食べた、乾パンみたいだ。

 思い出したら、氷砂糖も欲しくなった。


「うん、美味い」


「でしょ?」


 腹が減っていたオレ達は、デッカい乾パンのような物を、腹いっぱい食べた。

 空腹が解消されると、ひと心地つく。


「ふぅ。腹が減っていると怒りっぽくなるっていうけど、本当なんだな」


「そうね。さっきまではイライラして、言い争いばっかりしてたけど。今は、そんな気すら起こらないわ」


 言いながら、フェーが大きく伸びをする。


「ん~、眠い……」


「オレも……」


 腹がいっぱいになると、急に眠くなった。

 乾パンの中に、睡眠薬でも入っていたのだろうか?

 そうでなくとも、オレ達はとても疲れていた。


「ふぁ……」


「ふぁ~あ」


 フェーが眠そうに、欠伸あくびをした。

 オレにも移って、ふたりで大欠伸をした。

 オレ達は顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。


「寝よっか?」


「うん」


 その場で寝てしまいたいのを何とか堪えて、のろのろと綿が詰まった箱に入る。

 弾力のある柔らかな綿が、肌に気持ち良い。


 それにしても、今日は色んなことが起こりすぎた。

 妖精の国へ飛ばされて、初めて女子にモテて、初めてカラスに乗って。

 巨大ロボット大戦を見て、巨大ロボットに追い駆けられて、捕まって。

 初めての回し車に、すっ飛ばされて。


 散々な一日だったけど、明日は良いことがあると良いな。


 もしかしたらこれは夢で、本当は教室だったりして。

 それで、怒った先生に叩き起こされるんだ。


「そんなに、俺の授業は退屈か?」


「すいません。昨日、ゲームで夜更かししちゃって」


 オレが引きつった愛想笑いで言い訳すると、先生は意味深長なニヤニヤ笑いで頷く。


「そうか、そうか。じゃあ、ゲームが出来ないよう、君には特別に宿題を出して上げよう」


「えー、そんなぁー」


 オレがげんなりした声で言うと、クラスメイト達が笑うんだ。

 ふわふわのシースルーワンピースなんかじゃない、制服姿の男子と女子が。


「じゃあ、続けるぞー」


 そして先生の言葉を合図に、授業は再開される。

 昼になったらいつも通り弁当を食べて、いつも通り部活して、馴染みの通学路を通って、家に帰るんだ。

 うん、こっちの方が現実的だな。

 こっちであることを願いたい。

 そんな希望を胸に、眠りについた。

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