第20話 ロボットオタク、君は僕に似ている

「こんなところに置きざりにして、どうする気なんだろう?」


「たぶんここには、仮置きされたんだわ。これから、好事家こうずかと取引するんじゃないかしら?」


「うーん、何とか逃げる方法はないかなぁ……」


 話が途切れると、お腹が空いたのか、フェーはハムスターのように頬をふくらませて、乾パンを食べ出した。

 オレも、それにならって、朝飯代わりに乾パンを食べる。

 さすがに、ずっと乾パンだと、飽きてくる。

 オレもフェーも、食が進まない。

 そもそも、ケージの中で動けないから、それほどお腹も空かない。


 いつだったか、うちの母さんが「豆乳クッキーダイエット」とかいう、単品ダイエットをやっていたことがあった。

 でも三日としないうちに、クッキーに飽きてやめちゃったんだ。

 あの時は「根性なし」と、笑ったものだけど。

 今ならその気持ちが分かるよ、母さん。


 乾パンと水という、何とも味気ない昼食を済ませると、あとはやることがない。


「こう暇だと、やんなっちゃうわ」


「何してるの?」


「折り紙よ。やる?」


 暇を持て余したフェーが、床に敷き詰められた紙で折り紙をしている。

 折鶴や花などが、座り込んだフェーの足元にいくつも落ちていた。

 紙の硬さは、新聞紙くらいだからな。

 紙の大きさもB六サイズで、折り紙にするにはちょうど良いんだろう。


 フェーが作った折り紙をいくつか拾って、感心する。


「へぇー、なかなか器用なもんだ。でも、いいや。オレ、不器用なんだ」


「あら、そうなの?」


「うん、そういうの苦手なんだ。昔、色々教えてもらったんだけど、全然出来なくってさ。みんなから笑われたよ」


 あまりに暇なんで、回し車に再チャレンジしてみようという気になった。

 回し車に入ると、フェーが驚きの声を上げる。


「ちょっとっ、またやる気なのっ?」


「うん。もしかしたら、何かコツがあるのかもしれない」


「コツ?」


 首を傾げるフェーに、オレは軽く頷く。


「うん。回し車で、すっ飛ばされたハムスターなんて、見たことないからさ」


 すると、フェーが不思議そうな顔をする。


「ハムスターって何?」


「ああそうか。この島じゃ、ハムスターって何ていうんだろう?」


 カラスをバイクと呼ぶような島だから、きっと違う呼び名があるに違いない。

 でも、他にどうやって例えたらいいんだろう?

 考えに考え抜いて、結局何も思い浮かばなかった。

 しかたがないので、適当に答える。


「ここでいうところの、バイクみたいなもんかな?」


「そうなの? じゃあ、君はそのハムスター以下ってこと?」


「よし! じゃあ今から、ハムスター以下じゃないって証明してみせるからなっ!」


 カチンときて怒りながら言い放つと、フェーは肩をすくめて小さく笑う。


「気を付けてね」


「おうっ、見てろよっ!」


 昨日とは違って、慎重に足を運び始める。

 回し車のスピードを上げすぎないよう、注意する。

 すると、すぐにも筋肉痛の足が悲鳴を上げた。

 でも、急に立ち止まったりせず、徐々に速度落としていけば、意外と簡単に回し車は止まった。


「何だ。上手く調節すれば、ちゃんと止まるんじゃないか」


 すっ飛ばされずに済んで、ほっと一息吐いた。

 見ていたフェーが、感心した声を上げる。


「へぇ、良かったじゃない」


「もう、ハムスター以下とは言わせないよ?」


 得意げに言うと、フェーは意地の悪い笑みを浮かべる。


「まぁ、ハムスター並にはなったわね」


「ハムスター並?」


 オレが顔をしかめると、フェーは好奇心いっぱいの声を弾ませる。


「あたしもやりたいっ!」


「え? やるの?」


 昨日は、顔面蒼白がんめんそうはくで「やめとく」って、言ってたのに。


「ホントはやってみたかったんだけど、昨日ああだったでしょ? でも、今大丈夫だって、証明されたから」


「オレは実験台かよっ?」


 ムッとして睨むと、フェーはにっこりと笑って見せる。


「まぁ、見てらっしゃい。あたしは、ハムスター以下じゃないわよ」


「言ったな。もしすっ飛ばされたら、笑ってやる」


 挑戦的なフェーの言い草に、オレは意地悪く笑った。


「あたしはそんなヘマしないわ」


 オレと入れ替わりに、フェーが回し車に入る。


 それから数分後。


「きゃああああぁあああぁああーっ!」


 昨日のオレと同じく、すっ飛ばされるフェーがいた。

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