第15話 ロボットオタク、さらばやさしき日々よ

「そもそも、会話も成り立たないんだから、聞……」


 オレの言葉をさえぎって、突然、ジェット機が風を切るような大きな音。

 そしてどこからともなく、巨大ロボットのダミ声が聞こえる。


『みぃ~つけた~ぁ』


「わぁっ!」


「きゃあっ!」


 オレ達は驚いて、悲鳴を上げた。

 慌てるオレ達とカラスを、ロボットのデカい手がすくい上げる。


『も~ぉ、悪い子ちゃんで~ちゅね~ぇ。勝手に~いなくなったりしちゃあ~、ダメでちょ~?』


「ええっ? 何でよ! 足音なんてしなかったのにっ!」


「あっ! あれだっ!」


 鉄柱の上で、ゆっくりと左右に首振りをするカメラを見つけた。

 あれが、オレ達を見つけた正体だ。


 何故、巨大ロボットの足音がしなかったかというと、肘から先がロケットのように飛んできたからだ。

 まさか「マ○ンガー」の「ロケットパンチ」がくるとは、思わなかった。

 余談だけど、「鋼鉄○ーグ」と「ゲッター〇ボ號」では、手首から先が飛んでくる「ナックルボンバー」というワザがあったな。


 オレ達を乗せたロケットハンドは、持ち主に戻って腕にハマった。

 オレ達に、大きな影が落ちてくる。


『さぁ~、おいで~。俺の一五〇〇万~』


「うわっ! しかも、オレ達を売ろうとしていたヤツだっ」


「最悪ね。きっとこれから好事家こうずかに買われて、ケージの中で飼い殺しされる生活が待っているわ」


 冷静に分析するフェーの言葉を聞いて、背筋がゾワッと寒くなった。

 オレはフェーに向かって、怒鳴り散らす。


「何だよっ! 良く考えてみりゃ、女王に献上されようと、好事家に買われようと、飼い殺しにされることには、変わりないんじゃないかっ!」


「そんなこと、あたしに言われたって困るわよっ!」


 フェーも対抗するように、怒鳴り返してきた。

 確かに、その通りだ。

 八つ当たりもいいとこだ。すぐ後悔して、謝る。


「あ、ゴメン。何かテンパっちゃって」


「まぁ、この状況じゃ仕方ないわよ」


 やれやれとばかりに、フェーはため息を吐いた。


 巨大ロボットが歩くと、大きく上下左右に揺さぶられる。

 六階の高さくらいまで上がる。

 上がったと思ったら、三階の高さまで下がるの繰り返し。

 同時に、体重移動の大きな横揺れ。

 その上、巨大ロボットが大地に足を付ける度に、ズシーンズシーンという足音が腹に響く。

 まるで絶叫マシンに乗っているような感覚で、気持ち悪くなった。

 わざわざ高い金を払って、絶叫マシンに好き好んで乗る人の気が知れない。


「大丈夫? 顔色が悪いわよ?」


「うん、酔った……」


「君ってホント、乗り物に弱いのね」


「うん……」


 フェーは優しく、オレの体調を気遣ってくれた。

 オレはぐんにゃりしたまま、「早く降ろしてくれ」と、祈るしかなかった。


 巨大ロボットは上機嫌で、軍事基地らしき建物の中へ入った。

 コンクリートのようなもので出来た、飾り気のない簡素な廊下を歩き、どこか広い部屋に入った。


 巨大ロボットは、オレ達とカラスを引き離す。


「ダメ! バイクがいないと帰れないの! 返してっ!」


 フェーが必死に、カラスに向かって手を伸ばすが、ムダな抵抗だった。


『さ~ぁ、新ち~いおうちで~ちゅよ~』


 準備が良いことに、ケージは二つ用意されていた。

 一つは、鳥カゴ。

 中には、止まり木代わりの棒が入っている。


 もう一つの四角い金属製のケージには、ペットショップなんかで見かける、エサ入れと水入れがある。

 床には、切り刻まれた紙が敷き詰められている。

 一番奥には、たぶんベッドだと思われる綿が入った箱。

 そして何故か、回し車が置いてあった。


「ハムスターかっ!」


 聞こえてないと分かっているのに、思わずツッコんでしまった。

 しかし、有無を言わさず、オレとフェーはケージの中へ入れられた。

 逃げ出さないように、頑丈な鍵まで閉められた。

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