第16話 ロボットオタクと、ランナー

 猫なで声で、ロボットがオレ達に話し掛けてくる。


『妖精た~ん、いい子にちてるんで~ちゅよ~ぉ?』


「だが断る。ここから出してくれ」


 鉄製の冷たい柵を掴んで、ガチャガチャと鳴らした。

 言葉では伝わらなくても、ジェスチャーだったら何か伝わるかもしれない。


『おやおや~ぁ? 寂ち~んで~ちゅか~ぁ? でも~ぉ、これからお仕事でちゅから~、ゴメンね~ぇ』


「違う! 寂しいんじゃなくて、出して欲しいんだってばっ!」


『後で~ぇ、また来まちゅからね~ぇ。大人ち~く待ってるんで~ちゅよ~ぉ?』 


 オレ達が入れられたケージを台の上に置くと、巨大ロボットは部屋を出て行ってしまう。

 用心深く、部屋にも鍵が閉められた。


「待て! 待てってばっ!」 


 叫びながら柵をガッチャガッチャと揺らすが、巨大ロボットは振り向かない。

 巨大ロボットの大きな背中が、遠ざかっていく。

 オレは柵を掴んだまま、力なくずるずると床にへたりこむ。


「会話が出来ないって、なんて不便なんだろう……」


「良かった、バイクも置いていってくれた」


 オレの横では、フェーが安堵のため息をもらした。

 幸いカラスが入った鳥カゴは、オレ達が閉じ込められたケージのすぐ横に置いていってくれた。


「ここ、どこなんだろ?」


「巨人の家じゃないの?」


「そうかなぁ?」


 改めて、周りを見渡す。

 体育館くらいの広さがある部屋は、コンクリートみたいなもので作られている。

 天井も床も、壁も全部灰色だ。

 唯一の出入り口である巨大な金属製のドアは、先程巨大ロボットが鍵を閉めていった。


 ドアの向こうには監視のロボットがいるのか、はたまたカメラでもあるのか、ウィーンという機械特有の音が聞こえている。


 扉の向かいにある壁の上の方には窓があって、金網とガラスがハマっている。

 そこから外灯らしき光が差し込んでくるので、中はそこそこ明るい。


 部屋のあちこちには、大小さまざまな大きさのプラスチックっぽい箱が置いてあった。

 部屋の中心に、金属製の台だか箱だかが置いてあり、その上にオレ達がいるケージが置かれている。

 そのすぐ横には、カラスが入った鳥カゴがある。

 カラスは止まり木代わりの棒に止まって、眠っていた。


 ひと通り観察し終えて、俺は腕組みしながら呟く。


「もしかすると、ここは物置部屋なのかもしれないな」


「うーん、そうみたいね」


 フェーが、興味深々とばかりに回し車を見ている。


「ねぇ、これ何?」


「それ? 『回し車』っていって、中に入って走るんだよ」


「へぇ、やってみせてよっ」


 フェーが好奇心に満ちた目で、オレに催促した。


「そんな目で見られても困るよ。オレ、やったことないんだ」


「でも、見たことあるんでしょ?」


「うん」


「じゃあ、やってみせてよ」


「ヤダ」


 オレが首を横に振ると、フェーは唇を尖らせて怒り出す。


「何よ、意気地なしっ」


「別に、意気地なしってワケじゃなくて、本当にやったことないんだってばっ」


 怒鳴り返すと、フェーはさらに声を張り上げて言い返してくる。


「やり方知ってるんだったら、やってみせてよ! あとで、あたしもやるからっ!」


「ホントだな? ホントに、次やれよっ?」


「分かったわよっ! やるから、早くっ!」


「やるよっ、やればいいんだろっ!」


 しばらく押し問答を繰り返したが、口ゲンカではどうしても女子に負けてしまう。

 なんで女子って、口ばっかり達者なんだろう? 


 半ばヤケクソになって、回し車の中に入る。

 右足を前に踏み込むと、回し車がカラカラと音を立てて回り始める。


「おおっ?」


 回し車の動きに合わせて、足を交互に踏み出す。

 やってみると、意外と面白い。

 スポーツジムに置いてある、ルームランナーみたいな感じだ。

 足を速く動かすほど、回転が速くなっていく。

 横で見ていたフェーが、声を弾ませる。


「わー、面白そうっ。次やらせてっ、次やらせてっ!」


「うん、それは構わないんだけど。これ、どうやって止めるんだろ?」


 オレの言葉を聞いて、フェーの表情が固まる。


「えっ? 見たことあるって、言ってたじゃない?」


「回しているところは、見たことあるんだけど。止めるところは、見たことない」

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