第13話 ロボットオタク、ボクニデキルコト

「あー。本当に、これからどうしよう?」


 立ち上がって外へ顔を覗かせるフェーのワンピースを、オレは慌てて引っ張る。


「おい! 見つかったらどうするんだよっ!」


「大丈夫よ、今はいないみたい」


「ホント?」


「うん」


 フェーの言葉を信じて、恐る恐る外の様子を探る。

 確かに、巨大ロボット達の声も足音も、遠ざかったようだ。

 ひとまず安心。


「でも、カラスがこれじゃ、何にも出来ないよな」


「そうなのよねー」


「早く起きてくれるといいけど」


 カラスを起こさないように、羽をそっと撫でる。

 乗っている時はちくちくして痛かったけど、撫でるぶんには、結構手触りは良いんだよな。


 夢でも見ているのか、たまに小さく鳴く。

 カラスも、寝言を言うんだな。

 カラスはよく不吉だの害鳥だの言われるけど。

 こうやって見ると、結構可愛いかも。


 ややあって、フェーが小さく唸って座り直す。


「うーん、これは今日中には帰れそうにないわね」


「ええっ? 困るよ!」


「あたしだって、困るわよ。でも、バイクが回復するのに、どのくらい掛かるか分からないもの」


「どうしたらいいんだろう?」


 途方に暮れて問いかけると、フェーが真面目な顔をして呟く。


「ツィーとデューが、助けてくれるといいだけど。この状況じゃ、ちょっと無理そうよねぇ。第一、食べ物がないと、お腹が空いてしまうわ」


 フェーはカラスの首に付けてある、A四サイズくらいの大きさの袋を開けて、中を覗き込んでいる。


「ここには、バイクのご飯しかないし」


「それがあれば、とりあえず帰れるよ」


 するとフェーが、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「あたし達も、食べられないことはないんだけどね」


「『食べられないことはない』ってことは、マズいんだろ?」


 苦笑交じりに俺が聞くと、フェーも苦笑する。


「まぁ、美味しくはないわね」


「じゃあ、やめておくよ」


「そう? 残念ね」


 フェーはカバンを閉めて、楽しそうに笑った。

 オレも釣られるように笑いながら、冗談めかして言う。


「どうしても飢えたら、食べるかも」


「いいわよ、食べても」


「いや、今は食べないからね?」


 釘を刺すと、フェーは困ったような笑みを浮かべながら、小さくため息を吐く。


「ともかくバイクが走れないと困るから、あたし達が食べるのは最終手段ね」


「今度捕まったら、二度と帰してもらえなさそうだもんな。でも良い物は、食べさせてもらえるかもしれないぞ?」


「でも、飼い殺しよ?」


「捕まったら、終わりか」


 死ぬまで飼われるなんて、ぞっとしない話だ。

 腕組みをして、言葉を続ける。


「どうにか、ここを脱出しないと」


「慎重に動かないとね」


 フェーは物陰から、外の様子を見ている。


「でも、巨人がそう簡単に、逃がしてくれるとは思えないし。ああ、バイクさえ動いてくれたら何とかなるのにーっ」


 フェーが、天を仰いで嘆いた。オレは苦笑しながら、眠るカラスの羽を撫でる。


「さっきは動いても、何ともならなかったけどね」


「それでも、バイクが動いてくれなきゃ帰れないわ」


「結局、カラス待ちなんだな」


「いい加減、早く探すのを諦めてくれればいいのに」


 いくら話し合っても、堂々巡りだ。


 耳を澄まさなくても、巨大ロボット達の声と足音が、遠くから聞こえてくる。


『こっちはいないぞ~ぉ』


『そっちは探したか~ぁ?』


『いやぁ、まだだ~ぁ!』


 執念深く探す巨大ロボット達にうんざりして、オレ達は半分諦めモードだ。


「見つけ出すまで、探し出すつもりみたいだ」


「見つかるのも、時間の問題かもしれないわね」


 その時オレの頭の中で、ひとつの考えがひらめいて、フェーに問いかける。


「あのさ、オレ達だけで、妖精の国へは帰れないかな?」


「バイクを置いていくってこと?」


 フェーは難しい顔をした。

 カラスの頭を、優しく撫でながら続ける。


「帰れないことはないけど。あたし達の足じゃ、一体どれだけ掛かることか。それに、バイクだけ置いていくワケにはいかないわ」


 その時、家で飼っている犬を思い出した。

 金で買われ、主人を選べず、紐や鎖に繋がれて、飼い殺しにされる愛玩動物。

 側に置いておきたい理由は、「可愛いから」

 それだけの理由で、動物の自由を奪っている。


 カラスは、誰からも飼われずに自分の力で生きている。

 ここでは、妖精達に飼われ、馬同然の扱いだ。

 カラスにとっては、どちらが幸せなんだろう。


 急に、自分がイヤな人間に思えてきた。

 人間は、なんて自分勝手に動物を扱っているのだろう。

 飼われるかもしれない立場になって、ようやく気付いた。

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