第12話 ロボットオタク、若さのフォーメーション

 オレ達の足であるカラスは、可哀想なことに体力の限界だ。

 はあはあと、荒い息を繰り返している。


 こんなことになったのも、元をただせばオレのせいだ。フェーに向かって謝る。


「ゴメン」


「何? どうしたの?」


 フェーはきょとんとした顔で、オレを見る。

 オレの中で、反省の念がこみ上げてくる。


「オレが『巨人を見たい』なんて言い出さなければ、こんなことにはならなかったんのに……」


「ううん、いいの。君をここへ連れてきたのは、あたしだもん」


「でも……」


「謝るんなら、バイクに謝るのね」


 フェーの視線の先には、ぐったりと疲れ切ったカラスがいた。

 また走れるようになるまでに、どれくらい掛かるんだろう?

 カラスの背中を撫でながら、謝る。


「ゴメンね、疲れたろ? 今はゆっくり休んで良いからな」


 カラスは鳴くこともなく、ただ黙って目を閉じていた。


 フェーはやや疲れた顔で、地面にしゃがみこんだ。

 オレも横に座って、壁に寄りかかった。

 作り物の床と壁は、硬く冷え切っていた。


 ふと、空を見上げる。

 そびえ立つのビル群の隙間すきまから見る夕焼け空は、とても狭い。

 何もさえぎる物がない、妖精の国の空とは大違いだ。

 こういうの、何ていうんだったっけ?

 確か、「スカイ」何とかっていうんだよ。

 そうだ、思い出した。

高層ビル(空を削るもの)スカイ・スクレイパー」だ。


 まだ夕焼けってことは、ここに着いてから、まだ一時間も経っていないんだ。

 慌しさに時間の感覚がマヒして、今まで忘れていた。


「さて、これからどうしようかしら?」


「ずっと、ここに隠れてるって、ワケにもいかないもんなぁ」


 どうやらカラスは、走り疲れて眠っているようだ。

 これじゃ、当分動けない。


 壁に背を預け、フェーは顔をしかめて大きくため息を吐く。


「ツィーとデューとも、はぐれちゃったし。みんな、心配しているでしょうね」


「だろうね。まさか、こんなことになっているなんて、思わないだろうし」


「ううん。見つかったら、追い掛け回されるって分かってた。でも、あそこだったら、見つからない自信はあったんだけど。まさかバイクが、あのタイミングで鳴くとはね」


 フェーは悔しそうに、唇を噛んだ。

 オレは、その時のことを思い出して聞く。


「そういえば、アイツらは、なんでカラスの声が聞こえたんだろう?」


「鳴いたからでしょ?」


 フェーが首を傾げたので、オレは首を横に振る。


「そうじゃなくて。あれだけの騒音の中で、よく聞こえたなと思って」


「巨人の耳はね、ちょっと変わっているのよ」


「どういうこと?」


 今度はオレが、首を傾げる番だった。

 すると、フェーが分かりやすく説明し始める。


「音には大きい小さいと、高い低いと、速い遅いがあるでしょ?」


「うん」


「妖精の声は高くて小さいし、早口だから巨人には聞こえないの」


「ああ。何か聞いたことある、それ」


 確か「モスキートトーン」というやつだ。

 蚊の羽ばたき音は、高くて小さくて小刻みだ。

 人間は三〇歳を越えると、耳の性能が落ちてきて、高音域の音が聞き取りにくくなるらしい。

 巨大ロボットの耳は、おっさん並みか。


「でもバイクの声って、間延びしてて大きいし、良く響くでしょ? だから聞こえたの」


「そう言われてみれば、そうだな」


 車がブンブン走っている場所でも、カラスの鳴く声は結構聞こえる。

 そういうことか。

 

 この機に、色んなことを聞いてみよう。

 どうせ焦ったって、カラスは寝ているからここから動けないんだし。


「あと、不思議なのはさ。カラスがいたら、何で妖精がいるって分かったんだろう?」


「移動するのに、うってつけだから。妖精とバイクは、セットみたいなものよ」


「ああ、なるほど。車があれば、運転手がいるってことか」


 妖精は一家に一羽、もしくはひとりに一羽、カラスを所有しているのだろう。

 ガソリン代わりに、餌と水を与えて飼うに違いない。

 車検みたいに、カラスの健康診断なんてのもあるのかな?

 乗るのにも、免許が必要だったりして。

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