第11話 ダッシュ! ロボットオタク

 そんな時、一体の巨大ロボットが、割って入ってくる。


『妖精のツガイを、女王に献上するだって~ぇ? それならぁ、俺によこせ~』


『何言ってんだぁ、妖精のオスは国の天然記念物だぞ~ぅ?』


 オレ達を守るように手で包み込む巨大ロボットに、後からやってきた巨大ロボットが食って掛かる。


『だからこそぉ、好事家こうずかに高値で売れるんだろ~!』


『ふざけんなよぉ~! なおさらぁ、お前なんかに渡せるかぁ~!』


 何だか、不穏な空気がただよってきた。

 言い争いをしているのだが、ゆっくりとした口調で喋るので、緊迫感が足りない。


「やめてっ! オレの為に争わないで! あ、そうか。聞こえないんだった……」


 ひとりの女をめぐって争う男達を、止めるようなセリフを叫んでしまった。

 自爆して恥ずかしくなったオレに、フェーはニヤリと薄笑いを浮かべる。


「でもチャンスよ。もめてくれれば、騒ぎに乗じて逃げられるかも」


「あ、そうか」


 オレ達が逃走計画を企てている間にも、巨大ロボット達の言い争いはヒートアップしていく。


『いいから~、それをぉ、こっちによこせってぇ~言ってんだろ~!』


『渡せるワケないだろ~ぅ!』


『なんだとぉ、テメ~! やんのか~ぁ?』


『よぉ~し。妖精のツガイを賭けて~、勝負しようじゃないか~ぁ!』


 二体の巨大ロボットが、臨戦態勢りんせんたいせいに入る。

 自然と周りに、野次馬の輪が出来て、野次を飛ばし始める。


『おぉ~! ケンカかぁ~?』


『やれやれ~ぇ!』


『そこだ~ぁ! あ~あ、惜し~い!』


 巨大ロボット達の興味は今、巨大ロボット同士のケンカに向けられている。

 チャンスだ。

 オレとフェーは顔を見合わせて、頷き合った。


「今よ! 乗ってっ!」


「うん!」


 カラスはオレ達を乗せて、巨大ロボット達の足元をうように駆ける。

 巨大ロボット達が踏み鳴らす、ドシンドシンという地響きの中。

 野次馬に踏み潰されないよう、フェーがたくみにカラスをあやつる。

 間もなく、巨大ロボットの一体が、オレ達が逃げたことに気が付く。


『おい~ぃ! 妖精がいないぞぉ~!』


『どこいった~ぁ?』


『探せ~ぇ!』


「うわっ、もう気付かれたっ!」


 オレが悲鳴を上げると、フェーは舌打ちする。


「思ったより、早く気付かれちゃったわね」


 野次馬と化していた巨大ロボット達も、ケンカをしていた巨大ロボット達も、オレ達を追い駆け始める。


『捕まえろ~ぉ!』


『逃がすなぁ~!』


『俺の一五〇〇万~!』


 スゴイな! そんな高額なのか、オレは。それとも、フェーとカラス含めた金額なのかな? いやいや違う、そうじゃない! 人身売買をするなっ!


「お願い! もっと早くっ!」


 フェーが必死に、カラスを急かした。

 しかし、カラスも生き物。

 すでに三時間以上も走らされて、疲れが見え始めている。

 オレも、カラスに懇願こんがんする。


「頼む! 逃げ切ってくれっ!」


『あっちに~、逃げたぞ~ぉ!』


『追い~込め~ぇ!』


 巨大ロボット達も、しつこく追い駆けて来る。

 幸い、こちらは小回りがく。

 薄暗い建物の隙間へ入り、物陰に身を隠すことが出来た。


「どうにか、いたみたいだな」


「みたいね」


 オレ達はカラスから降りて、安堵のため息を吐いた。

 遠くからは、オレ達を必死で探すロボット達の声が聞こえる。


『どこいった~ぁ?』


『まだ~、そ~う遠くへはぁ、行ってないはずだ~!』


『探せぇ~』


『そもそも~お前がぁ、売る~とか言い出すから~、妖精が逃げたんじゃないかぁ~!』


『てめぇだってぇ~、女王に~献上するとかぁ、言って~たじゃねぇか~ぁ!』


『お前と~、一緒にすんなぁ~!』


『そもそも~ぉ、てめぇらが~俺にケンカふっかけっからぁ、逃げたんだろ~が~ぁ!』


『ん~だと~!』


 子供の擦り付け合いみたいなケンカを耳にして、オレは呆れる。


「あーあ。またケンカしてるよ。本当に、血の気が多い種族なんだな。ん? ロボットだから、種族っていうのは適切じゃないか」


 ともあれ戦争までいかなくとも、オレ達を探すこともそっちのけでケンカしてる。

 これでしばらくは、時間を稼げそうだ。

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