第10話 ロボットオタク、僕たちの行方

『こりゃあ良い~。女王様に献上しよ~う』


「えっ?」


 今、「けんじょう」とか言わなかったか?

 えーっと、献上って何だっけ?

 確か、「身分が高い人に、物をあげる」って意味だったような……。


「――って、待て待て! 何で、そうなるんだっ? それに女王って何?」


 日本には皇族こうぞくはいても、女王制度はなかった筈だぞ?

 村長とか町長とかじゃないのか?

 それとも、オレの聞き間違いか?

 そもそも献上って、どういうことだよ?

 オレは混乱するばかりだ。


『なんだなんだぁ~? オスがいたってぇ~?』


 フェーとカラスを手に持った巨大ロボットが、こっちへやってくる。


「フェー!」


「良かった、無事だったのねっ!」


 フェーの無事を確認して、ほっと胸を撫で下ろした。

 わずかな時間引き離されていただけなのに、不安で仕方がなかった。


 巨大ロボットの手から、どうにか右腕だけ抜いて、めくられていたスカートを下ろす。

 自由になった右手を、フェーに向かって大きく振った。

 フェーも嬉しそうに、手を振りかえしてくれた。


『あらら~、お友達と離されてぇ寂しかったんで~ちゅか~? ごめんね~ぇ』


 それを見ていた巨大ロボットが、オレとフェーとカラスを、同じ手の上に乗せてくれる。

 すかさずオレとフェーは、ひしと抱き合った。


「フェーも、心配してくれてたんだ?」


「当たり前じゃない」


「オレ、フェーがいなくて、心細かったよ」


「あたしも」


 オレ達の感動の再会を、巨大ロボット達が面白そうに見ている。


『おおぉ~、可愛~ぃ』


『微笑まし~い』


『和むなぁ~』


『ひょっとしてぇ~、夫婦つがいかぁ~?』


「違う違うっ!」


 巨大ロボットに向かって否定すると、フェーはいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「あたしは、別に構わないけど?」


「何『満更でもない』みたいな顔してるんだよっ! いやいや、それよりどうすんだよ、この状況」


「うーん、ちょっと逃げられそうにないわねぇ」


 先程とはうって変わって、フェーは真剣な顔で腕組みをした。


「このままだと、女王様に献上されて、一生飼われちゃうかもしれないわ」


「一生っ?」


 フェーの言葉にショックを受けて、目の前が真っ暗になった。

 この時オレは、非現実的な状況の連続ですっかり混乱していて、フェーが言ったことをおかしいと気付く余裕はなかった。


「あたしだって、そんなのゴメンよ。今は、とりあえず様子を見るの。タイミングを計って、逃げましょう」


「うん、それが良いと思う」


 オレが大きく頷くと、フェーも真面目な顔で頷き返してくる。


「巨人にはツガイだと思われているみたいだから、離れ離れにされることはない筈よ」


「だといいけど」


 こんな状況で、ひとりにされたらスゴく困る。

 さっきだって、かなり心細かった。

 もし、ひとりぼっちだったら、今よりもっとテンパっていたことだろう。

 

  出会って、まだ数時間しか経っていないけど、今はフェーがいてくれるだけ安心だ。


「それより、ツィーとデューが心配だわ。ちゃんと逃げられたのかしら?」


「うーん。見当たらないけど、逃げ切れたと信じたい」


 オレ達の会話は、巨大ロボット達には聞こえていないのか、巨大ロボット同士で話を進めている。


『おい~、誰かぁ、ケージ持って来いよ~。このままじゃあ、可哀想だ~ぁ』


『分かったぁ~、今持ってくる~ぅ』


 巨大ロボットの一体が、建物の方へ走っていく。オレは巨大ロボットに向かって、声を張る。


「いやいや、待って! 入れられた方が、困るんだけどっ!」


「何言ったって、無駄よ」


「無駄?」


 オレが確認するように聞き返すと、あきらめモードのフェーが頷く。


「あたし達の声は、聞こえないみたいなの」


「そうなんだ? ヤツラの声は、イヤというほど聞こえるのに。ヤツラには、オレ達の声が聞こえないなんて不公平だ」


「そうは言っても、どうしようもないわよ」

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