第4話 ロボットオタクは、巨人をもとめて

「じゃあさ、巨人って、どこにいるんだ?」


「巨人が見たいの?」


「見たいっ!」


 オレが大きく頷くと、女子達は、不思議そうに首を傾げたり、顔をしかめたりしている。

 何かおかしなことでも言っただろうか?

 ツインテールの女子が、さっきよりもっと不機嫌そうな顔で口を開く。


「あんな野蛮なヤツラが見たいの?」


「野蛮?」


「なんでか知らないけど、戦ってばっかりいるの」


「ああ、なるほど。それで野蛮か」


 オレが納得して頷くと、フェーが説明する。


「巨人の国なら、あの大きな山の向こうにあるわよ」


 言われて窓を見れば、遠くに大きな山が見える。

 あの山の反対側に、巨人の国があるのか。

 いや、待て?

 国って何だ、国って?

 県とか市とか町とかじゃないのか?

 それに、「フェー」だの「ポォー」だの、変わった名前が多い。

 考えてみれば、北海道や沖縄には、読み方が分からないような変わった名前や地名が結構ある。

 ここも、そういった場所のひとつなのかも知れない。


 フェーは、にっこり笑いながら口を開く。


「見たいんだったら、連れてっても良いわよ」


「行きたい!」


 オレは即答した。

 巨人って、どんなものなんだろう?

 早く見たくて、ウズウズする。

 たぶん、プロ野球団のことではないと思う。

 アクセントが違ったし。


「じゃあ、連れてってあげる。はいはい、アンタたち、ちょっと退いて!」


 フェーが女子達をかき分けながら、部屋を出て行く。

 フェーは離れた場所から、オレに向かって声を張る。


「じゃあ、ちょっとバイク回してくるから、家の前で待ってて」


「ああ、分かった」


 オレは、言われた通り、外へ出る為にベッドを降りた。

 その途端、黄色い声を上げながら、たくさんの女子達が押し寄せてくる。


「きゃーっ!」


「結婚してー!」


「うぉーい! 外へ出るから、通してくれーっ!」


 オレは、声を張り上げながら、女子達を掻き分けて進む。

 そうでもしないと、部屋から出られない。

 そんなに広い家でもないのに、外に出るまでにずいぶん時間が掛かってしまった。


「はぁ……やっと出られた。うーむ、モテる男ってのはこういう感じなんだな」


 芸能人にでもなった気分で、ちょっとイイ気になってしまった。

 嬉しい反面、ちょっと困る。

 今も女子達が、オレの周りで輪を作って黄色い声を上げている。

 試しに、笑顔を作って手を振ってみると、黄色い声が沸く。


「キャーッ!」


「いや~んっ、可愛い~!」


「こっち見たわよーっ」


「今、わたしと目が合ったわーっ!」


「ちょっと、アンタじゃないわよ、あたしよっ」


 そんな思いもよらぬ盛り上がりに、思わずニヤニヤしてしまう。


「あはは、スゲぇ」


 家の外へ出ると、緑豊かな風景が広がっていた。

 風が吹く度に、緑がざわざわと揺れる。

 裸足に、草の柔らかな感触が心地良い。

 いかにも農村といった雰囲気で、大きな田畑が広がっている。

 田畑の真ん中には、大きな川が流れている。

 木造平屋建ての家が、いくつも建っている。

 平屋建てといっても、日本家屋ではない。

 キャンプ場やスキー場で見かける、バンガローやロッジに近い感じだ。

 遠くに見える大きな山以外に、高層ビルや電信柱なんてものはひとつもない。

 電気はどうしているんだろう?

 電線も、水道菅みたいに地中に埋めるっていうのを、聞いたことがある。

 そういうものを、実験的に導入している島なのかもしれない。


 さえぎるものが何もないから、空がとても広い。

 空気が良いからか、東京よりも空がずっと青い。

 ふんわりとした雲が、白く輝いているかのように眩しい。

 少し遠くに見える、大きな山も緑が濃くて綺麗だ。


 しばらくして、フェーが「バイク」とやらにまたがって、家の前へ戻ってきた。


「お待たせー。さ、乗って」


「どこに?」

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