第5話 シリアルキラーの誕生
次に私の目が覚めたのは、暗い部屋の中だった。
そして横には、男がいた。
「やぁ、目が覚めたかい?君は目覚めも早いんだね。生まれた時から素質があるんだな、きっと。」
そんな事言われたって、私は少しも嬉しくなかった。殺し屋になることを望む人なんて、どこにいるのだろうか。
「君には3つの能力を与えた。1つは、持久力の増加だ。私の命令は、筋力には作用しても持久力には作用しない。つまり、筋力だけが大幅に増幅する分、持久力の消費が激しくなるだろう?だから、先程の君が持つ量の15倍にはしておいたよ。筋力と同じ、ね。」
確かに、私は元々持久力が圧倒的に劣っている。
50メートル走が6秒、1500メートル走が…言えない。そのくらい、劣っているのだ。
「そして2つめは、動体視力の増加。人を追うのにも、動体視力は必要だろう?そして、プロのスポーツ選手が持つ動体視力の何倍もの能力を入れている。きっと戦闘になれば、相手の動きがゆっくり見えてしまうだろう。」
相手の動きがゆっくり見えてしまえば、きっと来る攻撃を容易く避けることが出来てしまうだろう。
「そして最も重要な3つめ。それは、まだ作用していないのだが…」
「じゃあまだ私はその能力を手にしていないという事だよね…それって一体なんなんですか?」
男の顔が段々とにやけている。
どこまでいっても気味の悪い人だ。
そして、ゆっくり、口を開いた。
「…君のその思いやりの心、優しさ、情、それを一切、消し去るんだよ……!!!!」
「…え?」
思わず、頼りない声が漏れる。
「滲み出ている、優しさが最初から鬱陶しくて堪らないんだよ。だからといって捨てる訳にも行かないんだ。だって、君のその生まれ持った才能は惜しいからね。」
「そんなの、人として、ない…!!有り得ない!!」
優しさが鬱陶しい…?そもそも滲み出るって何…?
今なら、大幅に増幅した持久力で走り逃げる事もできる気がした。
でも、体は動かなかった。
男が放つ、圧倒的な威圧に、耐えられなかった。
そして男は、更に低い声で、腹を立てているような声で、こう言った。
「もう、決めたんだ。変えることは私が許さない。最後の話を聞いてやろうと思ったが、いいのだな」
「ま、待って!待ってください!」
「なんだ。」
「妹に、会わせて……」
私は涙ぐみながらそう言った。
まだ、あの後から愛莉珠に会えていない。最後に見たのは、耳栓を付けられ、腕も口も縛られた愛莉珠の姿だった。今、どうなっているか分からない。
ましてや、生きているかさえ……
「ほう。いいだろう。連れてこよう。」
そう言って男は、部屋を出ていった。
私は、今が逃げ出すチャンスかもしれないと思い、寝ていた体を起こそうとしたが、全く動かない。
きっと、男が私に動かないよう、命令をしてから出ていったのだろう。隙がない。
シリアルキラー 懋助零 @momnsuke109
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