第4話 今日から私は"私"じゃない

その時、男が手を挙げた。

手の甲には、気色の悪いひとつの目があった。


「…嘘、でしょ…人間なの、ホントに…」

私の意識はその目にしか行かなかった。

目を離したくても離せない。そして、私の頭の中に、言葉が流れ込んできた。



「殺せ…殺せ……殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ」


大量の殺せという言葉に、私は人を殺したい衝動に駆られた。そして、ついにそれを抑えきれず、私の体はものすごいスピードで動き出した。


次に意識がはっきりした時、私は手の甲に目があった男の手からナイフを奪い、押し倒して上に乗っていた。


「あ、あぁ…私なんてことを……」

「ハハハ……ハハハ!!!!!」

男は何を思ったのか、自分が殺されかけたにも関わらず、謎の笑いを上げた。

「いいんだ、いいんだよ……!!ここまで効果が出る人間は初めてだ…君はいいシリアルキラーになるだろう……ハハハハハハ!!!!」


私は恐ろしくなり、その場から逃げ出そうとして男の上をどき、ドアの前に立った。

「もういいですか、私はシリアルキラーになんてなりません。絶対に。」

「…もう、遅いよ?」

男が放ったその言葉に、私の胸の鼓動が早くなる。

「ど、どういうことですか……」

「もうなってるんだよ。」

「いつなったというのですか……?」

更に、私の鼓動は早くなる。

1つの返事さえ男がしなければ、私はまだ、幸せに生きられる。逃げ道はきっとある。


「さっき、私の手を見ただろう?その時だよ。既に君は、私のコマだ。」

それを聞き、ふつふつと怒りが湧いてきた。

私の普通の幸せな日常を、コイツは勝手に壊した。

今まで積み上げてきたものも、全て。


私は怒りに身を任せ、また男に襲いかかった。


だが、先程とは違った。

化け物のような力はでず、力を搾ってだした蹴りも、軽々と避けられ、挙句に腕を掴まれる。

「私は命令してないからね、さっきの力はでないさ。」

「くっ……!!」

私は、反発しようにも力が足りず、かと言って命令されて力を手に入れても操られている為自分の意識は関係なくなる……手の施しようがなかった。

私が項垂れていると、男が言った。

「そうだ、新しいシリアルキラーには「能力」を授けないといけないね。」

「の、能力……?」

「そうさ、我々の最新技術で、人間離れした動きができるマイクロチップが開発されている。それを、政府には言わずに使っているんだ。」


人間離れした動き、例えば、空を飛ぶとかだろうか??気になったが、私はそこで興味を示せば自分の負けを示しているように感じ、慌てて開けかけていた口を閉じた。

でも逆に、男は口を開いた。


「君は、シリアルキラーへの適応も早かったし、まだ使ったことの無い特別な能力をあげようか。」

特別な、能力……


そこまで聞いた途端、私の意識は途絶えた。

きっと、また男が命令したのだろう。






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