第2話 消えゆく日常


ドアを開けたら、眩しい朝日が目に入った。


「うぇ、眩しー私にはきついわ、この光。」

「そう?キラキラで素敵じゃない??」


愛莉珠は考えることがもう素敵だ。

私とは真逆。私も見習おうと思った。


しばらく無言で歩いていたら、愛莉珠の足が、段々と早くなっていることに気が付いた。


私は、静かな声で愛莉珠に尋ねた。

「ねぇ、歩くの早くない?」

愛莉珠は後ろをチラ見し、すぐ私の方に目線をやった。そして、耳元で囁いた。

「わ、私たちつけられてるよ…!!誰かに…!!」

誰かにつけられてるって、ストーカーみたいなことか?と思って後ろを見ると、確かに全身黒のスーツに身を包んだ、長身の男性が、私たちの後を追っている。


「ちょっと、ホントに付けられてるか分からないから、ぐるぐるこの辺を回ってみよう。」

愛莉珠にしか聞こえないぐらいの声で言った。

私達はすぐそこにあった路地に入り、そこを抜けた先の住宅街の家の間の道路をぐるぐると回りながら歩いた。

その間、ずっとチラチラと後ろを見ていたが、やはりあの男性は私たちの後ろに着いてきている。


「…偶然では、ないよね。」

そうわかった瞬間、急に怖くなり、愛莉珠の手を強引に引いて走った。

「ちょっと、お姉ちゃん、相手は男だからすぐ追い付かれちゃうよ!!」

確かにそうかもしれない。だが、このまま何もせずにいるより、行動した方がまだ安全だと思った。


私は愛莉珠を安心させるように、自分の気持ちを伝えるように、もう一度ぎゅっと手を握り直した。


愛莉珠も、横に並んでくれた。


「2人なら、きっと大丈夫だから。ね?」

自分にも言い聞かせるようにそう言った。


また、後ろを見みてみたが、相手も早歩きで追いつこうとしている。私達は角を曲がり、相手が来てないことを確認して建物と建物の間の細い裏道に入った。


「はぁっはあっ、何とか、巻けたかな…」


「うんっ…はぁっ、学校早く行こう、この事伝えな………ん"っっ!?」


巻けてなんかいなかった。先回りされて、男は既にここにいた。愛莉珠は、口を塞がれ何も喋れずにただ涙を流して、私に目で訴えてくる。

「たすけて」と。

私は勇気を振り絞って、口を開いた。

「…愛莉珠を、離して!!!」


「へぇ、愛莉珠って言うのか、君。」

男が喋った。低くて、威厳のある、声だ。空気がビリついた気がした。


「ん"ーん"ん"!!!!!!!」

愛莉珠は足と手をジタバタさせたが、相手は年上で、しかも男。ビクともしなかった。


「…離してと言っているでしょう…!!!!」

私の足はふるえ、今にも腰が抜けそうなほど恐怖でいっぱいだ。声だって震えている。それでも、引き下がれば愛莉珠の命が危ないかもしれない。

絶対に怯むものか、もう一度、自分に喝を入れる。


男は口角を少し上げ、1度頷いた。

そして、愛莉珠の首をトンと叩いた。


「バタンッ」


愛莉珠が、白目を剥きながら倒れた。

私はその瞬間、恐怖に怒りが打ち勝った。

「ッ…!!!!!」

声にならない叫びと共に、私は男に殴りかかった。

男の顔に当たる寸前、私の拳は止められた。そして、私の腕を掴み、注射器を刺した。


私の意識は、そこで途切れた。


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