ep.07 眠りの中の夢の中の眠り
「神は夢を見るか?」
彩花は、先生のその言葉にノートから顔を上げた。
板書が多くて嫌になる。どうして人ひとりの人生を授業の題材にするんだろう。
もう80ページも板書し続けている。人生なんかするから。
授業に飽き、飴が降る窓の外を眺めていると、隣から手紙が飛んできた。
蛍光灯が点滅するせいで、教室が瞬間的に闇に包まれる。
「きみの友達の青虫から……」
「ありがとう、タナトスくん」
壁から採ったチョコレートをお礼に渡すと、タナトスは点滅に耐えきれず消えた。
もうそんな時間か、下校しなくてはと思い手紙を開く。どんぐりがみっつあった。
ああ、なんてことだ。友達の青虫が、さなぎになるかどうか迷っている。
青虫の涙が川を作り、彩花は登校するために橋を渡った。
空を飛ぶのに橋を渡る必要があったかわからないが、学校は紅葉になっていたから。
「そう、チーズを取るために家に帰らなきゃいけないんだった」
近所の文房具店に辿り着くまでにクローバーの咲く山を4つも越えた。
「……これじゃ食べられないじゃない」
トーストにバターを塗っていると、バターがすべて金の粒に変わってしまった。
じゃらじゃらと耳障りな音を立てて海に落ちていく。床を泳ぐ金魚が金を食べて、蛍光色にぴかぴかした。彩花は仕方なくチェリー・マーマレード・ジャムの瓶を手に取り、金魚に塗った。そうしなくてはならなかったから。
金魚が脆く崩れ去って、手にパンくずだけが残った。その感触の気持ち悪さに顔を顰めつつ、お墓を作らないと、と思った。地面からぶどうが咲き乱れる丘に行き、金魚だった気持ち悪いパンくずを埋めた。新しいワインが生えてきて飲んでみたら、不思議とそれはバターだった。そうだ、バターが必要だったっけ。
おおきなチーズに腰かけて、金の葉が茂る木の下に滑って行った。
木の洞から誰かの目がのぞいて、世界は暗闇に包まれた。彩花はチーズをめちゃめちゃに塗りたくって光の道を作った。クリスマスツリーに飾られた小さな猫たちが水晶の毛玉を吐き出している。母親が起こしに来て、彩花は目が覚めた。
教室へ繋がる階段を上がると、ホールに出てしまい、自動販売機がずっと並んでいた。お花のジュース。お花のジュースを探さなくちゃ。
みっつめの自動販売機にあったけれど、3000円もした。いくらあったか思い出せなくて鞄を覗くと、かえるの貯金箱と目が合った。かえるの貯金箱はぴょんと逃げて、職員室が13回並ぶ廊下の奥へ走っていく。自動販売機でお花のジュースを探しながら、彩花は掃除用具入れの渡り廊下を渡った。それは小学校に繋がっているもので、一年生の教室と二年生の教室の間に出た。階段下のゴミ箱を探して渡り廊下へ。
「こんなところあったっけ」
パソコンの並ぶ教室、図書室、図書準備室、床のない7年生の階。揺らめく階段から落ちないようにして自分の教室を探す。
教室へ繋がる階段を上がると、ホールに出てしまい、自動販売機がずっと並んでいた。お花のジュース。お花のジュースを探さなくちゃ。
みっつめの自動販売機にあったけれど、3000円もした。いくらあったか思い出せなくて鞄を覗くと、かえるの貯金箱と目が合った。かえるの貯金箱はぴょんと逃げて、職員室が13回並ぶ廊下の奥へ走っていく。自動販売機でお花のジュースを探しながら、彩花は掃除用具入れの渡り廊下を渡った。それは小学校に繋がっているもので、一年生の教室と二年生の教室の間に出た。階段下のゴミ箱を探して渡り廊下へ。
「そういえば、入っちゃいけないって言われていたような気がする」
教室へ繋がる階段を上がると、ホールに出てしまい、自動販売機がずっと並んでいた。お花のジュース。お花のジュースを探さなくちゃ。
みっつめの自動販売機にあったけれど、3000円もした。いくらあったか思い出せなくて鞄を覗くと、かえるの貯金箱と目が合った。かえるの貯金箱はぴょんと逃げて、職員室が13回並ぶ廊下の奥へ走っていく。自動販売機でお花のジュースを探しながら、彩花は掃除用具入れの渡り廊下を渡った。それは小学校に繋がっているもので、一年生の教室と二年生の教室の間に出た。階段下のゴミ箱を探して渡り廊下へ。
幼馴染のオネイロスとエルピスが、下校しようとバスを待っている。
教室へ繋がる階段を上がると、ホールに出てしまい、自動販売機がずっと並んでいた。お花のジュース。お花のジュースを探さなくちゃ。
みっつめの自動販売機にあったけれど、3000円もした。いくらあったか思い出せなくて鞄を覗くと、かえるの貯金箱と目が合った。かえるの貯金箱はぴょんと逃げて、職員室が13回並ぶ廊下の奥へ走っていく。自動販売機でお花のジュースを探しながら、彩花は掃除用具入れの渡り廊下を渡った。それは小学校に繋がっているもので、一年生の教室と二年生の教室の間に出た。階段下のゴミ箱を探して渡り廊下へ。
「わたし……なにを、するんだっけ……」
家の玄関にある自動販売機で、お花のジュースを見つけた。100円だった。
10円を入れて6本買うと、渡り廊下の向こうから白い人が追いかけてきた。
階段を30回ほど駆け下りて、近くの教室に隠れる。第二美術室だった。暗幕が掛かっていたからか、灯りに慣れた目では何も見えない。ただひとり、フラスコで闇を煮詰めるタナトスだけが見えた。泣きたい気持ちがこみ上げてきて、次々に花を生み出すフラスコを見つめた。ああ、落としちゃいけないのに。必死にお花を拾い上げると、白い人が窓すべてに張り付いていた。彩花は悲鳴を上げて、せっかく買ったお花のジュースを投げてしまう。缶は白い人をすり抜けて、懐かしい街並みへ落ちた。
彩花はタナトスの手を引いて、空を駆け出した。懐かしい気のする家々の中を通りすがり、自分の家を目指す。しかし、何度辿り着いてもああ、ちがう、帰る家はここじゃなかった、となり懐かしい道を駆け巡る。魔法のホウキが導くように家の方向に飛んでいく。ああ、ここからなら家に帰れる。駅ビルの服屋を通り、デパートの80階に行くためにエレベーターに乗った。誰かと乗り合わせてしまい、後ろのタナトスは階段で行くと乗らなかった。気まずくはないけど、エレベーターの揺れがあまりにも大きくて怖くなる。どこまでも続く廊下と扉を、自分の部屋番号を思い出しながら探した。そうだ、エレベーターで乗り合わせたのは、修学旅行の班が一緒な先輩だ。
ビーチに行くために階段を1つ降り、夏の水に氷を浮かべる。
自動販売機で探すものがあったのに。売店の閉まる時間で中華料理店に行き、ちいさな小籠包をひとつもらう。彩花は大切に大切に手に持った。これを孵さなくては。
「お土産、もう買った?」
「お土産……誰に買うんだっけ……」
「家族は?僕は兄上と妹に」
「わたしは…………両親と……」
あれ?なんかおかしくない?
ゼリーの上を歩きながら、先輩と話し続ける。
この人は本当に先輩だっけ?
「えっと………………」
家の近所を歩きながら、先輩へ一歩近づいた。
そして彩花は、やっと理解する。
「これ、夢なのよね?」
「………………」
「これってわたしの夢?じゃあ、あなたは?」
「……箱が、開かれたんだね」
辺りが急に整頓され、教室ひとつだけになる。
黒板には「神は夢を見ない」と書かれていたが一瞬で消え、次に「夢だと自覚すると夢は自らを片付けてしまう」という文章が現れた。
ものすごい勢いで景色が流れ、白に収束する。
「僕は夢を見ないから、夢を見る誰かが必要だったんだろうね」
「…………今まで、誰の夢にいたの?」
ざざざざざ。
木々の騒めきに混じり、ヒュプノスの答えは聞けなかった。
「夢は目覚めると忘れるものだ……でも、面白かったよ、きみの夢」
「じゃあ、目覚めてくれる?タナトスが待ってるの」
「兄上が?」
「わたしを庇って、いま大変な状況になってるの」
夢は白から動かない。ヒュプノスが留めているのだろう。
「兄上が、きみを……庇ったって?」
「そうよ、彼、やさしい人だった……」
「そうか、じゃあ、僕だって目覚めなくちゃ」
「きっと喜ぶわ」
「目覚める前に、ひとつだけ教えて」
ゆらめく白の中で、ヒュプノスの声がこだまする。
「……僕、きみや兄上にひどいことしなかった?」
返事の代わりに、彩花は優しく首を振った。
◆
勇気の湧き出る泉、のような声がする。
「彩花!ヒュプノスがおきたよ!」
「!!」
彩花は勢いよく起き上がり、辺りを見回した。
「どうしたの?」
「……怖い夢を、見た気がする」
「ここは正しき夢の門、悪夢など見るはずがない……ですが、ヒュプノス兄さまが眠りに落ちたのが、きっと悪しき門だったのでしょう」
「……どういうこと?」
ぼんやりとする頭を振り、辺りを見回す。
オネイロスが二人に見えるだなんて、まだ寝ぼけているのだろう。
途端に片方のオネイロスがケタケタと笑い出し、傘をくるくると回した。
「こんにちは悪しきボク!客人に悪夢を見せて満足した!?」
「……なんですって?」
「ここはまだ夢の中だし、ヒュプノスは目覚めないってコト!」
はっきりしだした頭が再びゆらゆらとゆらめいていく。
「やめなさい!!ここは正しき門、
一方のオネイロスに厳しく叱咤され、ケタケタ笑いながら消えていく。
途端に彩花は意識を明晰に取り戻した。
「……なに、いまの」
「あれがわるいこのオネイロスだよ、彩花」
「普段はここまで来ることはないのですけど……」
冷や汗を拭う3人(と、1羽)の背後で、ヒュプノスが声を上げた。
オネイロスが駆け寄り、助け起こす。
「あれ……僕、寝てた?」
「……ええ、ほんの少しね」
「ん?きみ、誰?」
「自己紹介からね」
3人と1羽はため息を吐き、ヒュプノスに洗いざらい説明した。
「誰の夢にいたか憶えてないんだ……でも、最初は……」
「最初は?」
「怖い夢を、見ていた気がする」
「……わたしも」
「でも、いまは不思議と楽しい気持ちなんだ」
夢は、起きると揮発してしまうもの。
彩花も、よくわからない感情を抱いたまま、ヒュプノスの言葉に頷いた。
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