雨上がりの君たちへ

黒猫chiva

第1話 運命の石

「だぁーーーーーーー」

家に帰って、お風呂に入って、ベッドに横になる。

寝る。

そして今日が終わり、また次の日になる。

代り映えのしない今日が昨日になり、明日が今日になる。

毎日毎日、何種類かの違いはあれど、頼まれごとは一緒だ。

今日も昨日も、明日も明後日も。

週末以外は同じ毎日。

海。

海が見たい。

そう思って起きたら号泣していた。

朝の6時。

会社には体調不良のため休暇の願いを出し、休みと告げた。

海に行こう。海。

ただ、ただ、海見たさに、会社を休んだ。

たんとなく鎌倉に行きたくなって、

江ノ電に乗りたいと思った。


特に意味はない。

軽い「躁」なのかな、なんて考えながら、

目の前に海原を見たら、

仕事なんてどうでも良いかと思っていた。

「私、何やりたかったんだっけ。」

今朝は、夢で海を見たのかもしれないなと思った。

今しがた海を見た瞬間も号泣していたからだ。

海は全てを包んでくれる。

「鎌倉に住もうかな。」

鎌倉の街はちょっとした賑わいがある。

鎌倉に住むんだったら、仕事も探さないとな。

気がつくとメインストリートから外れて、賑わいの少ない、

路地に来ていた。


左側にお香が立ち込めるお店があった。

一見、水タバコやさん見たいな出立ちのお店。

オリエンタルなお店と言えばいいのだろうか。

南国で流れていそうな、聴きなれない音楽が道路まで

かすかに聞こえる。

扉は開いているようだ。


少し覗いてみよう。


こんなお店に入ってみるのは人生で初めてだ。

いつもなら怖くて敬遠してしまう。

「こんにちはー」

誰ともなしに話しかけてみる。

すると、お店の奥から

「いらっしゃい、どうぞ、ごゆっくり。」

と、しなやかで色っぽい男性の声が聞こえてきた。

「どうも。」

ゆっくりと店内を見て回る。

外の明るさから一転し、薄暗い店内で目が慣れるのに少し時間がかかった。

”天然石”

どこにでもありそうな天然石屋さんかと思いきや、いろんな石が山盛りで置かれている。

これじゃ、どれが何の石だかわからなくなりそうだなと思って、近づいてみる。


「一期一会。

石にも運命が宿っています。

貴方だけの石に選ばれてください。」

そう書いてある。

何だか買いたくなってしまった。

『運命の石』か。かっこいい。

天然石の山の手前に小さな木製のトレイが何枚か重ねておいてある。

一粒一粒選んで、木製のトレイに入れていく。

四粒選んでみた。

それをレジに持っていく。


「はい。『運命の石』を4つでございますね。

ストラップやブレスレットにできますが、いかがなさいますか?

プラス5000円で腕の大きさに合わせた数の水晶をおつけして、

ブレスレットに仕上げさせて頂きます。ストラップは石4つですので、

お値段は変わりませんがいかがなさいますか。」

「じゃあ、ブレスレットにして下さい。」

「かしこまりました。4つのお石ですと何パターンかできそうです。

4つの石を一つにまとめたデザイン。

均等に4つの石を配置したデザイン。

4つの間に一粒ずつ水晶をあしらったデザイン。

そのほかご希望のデザインはございますでしょうか。」

「あー。。。どれも素敵で迷います。

悩みますが、最初の4つの石を一つにまとめたデザインでお願いします。」

「かしこまりました。では、出来上がりまで今しばらくお待ちください。

店内にはアクセサリー等もございますので、どうぞぜひご覧ください。」

「はい。ありがとうございます。」

出来上がりまで店内を見て回ることにした。

天然石以外にはシルバーアクセサリーが素敵に陳列されている。今度アクセサリーも買いに来よう。

「さあ、出来上がりました。」

ブレスレットが完成した。

左手に付けてみる。

前からあったかのようにしっくりくる。

「石に選んで頂けたのかなぁ。」

ポツリと、つぶやいた。

「きっと、ずっと。何万年もお客様のことを待っていたのではないでしょうか?」

なんだか運命を信じたくなった。

「ありがとうございます。大切にします。」

「こちらこそ、ありがとうございます。またぜひお越しください。」

ブレスレットは左手にしているが、収納袋と、紙袋を渡してもらった。

「はい。ありがとうございます。」

なんだか心強いタリスマンを手に入れたような。

自信に満ち溢れてきた感じがする。

ここ数週間の悪夢やら何やらが全部吹っ飛んだような。

あ、お店の名前。。。そう思って振り返った。


「καλή τύχη」


なんて読むんだろう。

紙袋に「カリティフィ」と買いてあった。

何語なんだろう。

不思議なお店だ。

また、近々こよう。

そう思いながら時計を見たら、午後3時を回っていた。

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