第12話 バーメイドと二代目達

ジュナとアルのお店にお昼ご飯をご馳走になるついでに仕事の話をしにやってきた蝋燭屋の二代目カティは持ち帰りのお弁当であるサンドイッチを購入して店内の端でそれを食べながらロアの作ったアロマキャンドルを見て驚いていた。

 

「えぇ! すっごーい! ロアさんよくこんなの考えついたわね?」

「いえいえ、私が考えたのではなく私の住んでいる地域で昔から使われてきた物なんです。ですが、バニングさんに劣らずカティさんの蝋燭も大変素晴らしいですね!」

「でしょー! でもおじいちゃんあの通り拘りが強いから私の作る蝋燭にも度々ケチつけるのよね! これお店に出せないやつだから好きに使って」

 

 そう言ってカティが持ってきた蝋燭は花や動物などの形をした物。これを手作りしているのだ。そして使い切れなかった蝋燭も沢山持ってきてくれた。

 ロアは自作したアロマオイルを持ってきて本来はそれを蝋の中に溶かし込んで作る物である事を伝えるとカティはオイルの作り方をロアから学ぶ。

 

「へぇ、割と簡単に作れるんだ。仕事の報酬なんだけど、アロマキャンドルの独占販売ってところで手を打つけど?」

「あはは、ミトラさんの宿にはお安く提供してあげていただけるのであれば」

「乗った! じゃあ、オイルの方も私が作るから明後日くらいに試作品作って持っていくね?」

「お願い致します!」

 

 

 これでアロマキャンドルに関してはなんとかなりそうだ。ハンモックとアロマキャンドルで最高の睡眠と目覚めを提供する。そして次は食事である。その食事に関してはここにいるジュナの力を貸してもらおうと思っていた。

 

「ジュナさん、お待たせしました。お手伝いします」

「ありがとうございます」

 

 ジュナが料理を作りアルが運んでいるのだが、パンケーキの人気は尋常じゃなく隣町からも食べに来る人が増え、この前作った外のオープン席もピーク時は常に満席。口を酸っぱくロアから焦って料理の味を落としてはいけない事をちゃんと守りながらもジュナのパンケーキを仕上げる速度は日本のお店でも恥ずかしくないくらいの職人レベルに達していた。

 

「こちら、パンケーキとフルーツの盛り合わせ。お待たせしました!」

 

 ロアは女性客の前で跪くように腰を低く料理を運ぶその様子に店内の女性客の黄色い声が飛び交う。中には一目ロアを見ようと貴族の令嬢らしいお客さんもちらほら見えるくらいだ。

 何度か自分の屋敷で働いてくれないかとロアは口説かれた事もあったが、ロアの店はここでここを離れるわけにはいかないと答え、ジュナとアルと安心させ、貴族の令嬢達からすればこの店に通わなければ会えない存在としてより人気に拍車がかかっていた。

 

「アル、ロアさん、お疲れ様です! 午後の営業終了です! お昼にしましょう」

「僕お腹空いちゃったよぉ!」

「ジュナさんもお疲れでしょう。私が何かお作りしますので、そちらにかけてください」

 

 時折ロアがお昼ご飯や夕食を作る時がある。できる限り再現できる材料でロアの知る料理をジュナに教える為でもある。

 

「さて、この前お話ししたブイヨンスープ。いいですね。調味料とお野菜を入れて人気スープになっています」

「でもまだまだロアさんが作ってくれた物にはかなわないです」

「あはは、あれは私も作れるわけじゃないんです。私の地域ではこれらスープの素という物がありまして、それを使えば簡単にできるんですが、私が一からこのスープを作るという事は今まで行った事がありませんので、既にジュナさんの方が私を超えていると言っていいでしょう。ここでこのブイヨンスープに赤み肉や香味野菜、そして卵白を混ぜて味を調節した物をコンソメといいます。こちらにご用意しましたので飲んでみてください」

 

 何も入っていないコンソメスープ、それをジュナとアルは飲んでみて驚く。ブイヨンスープよりも遥かに美味しい。

 

「ロアお姉ちゃん、これ美味しいよ!」

「はい! とっても美味しいです」

「ふふっ! 良かったです。このコンソメスープがあれば多岐に渡る料理をお作りする事ができるようになります! では一例をご用意しますね!」

 

 ゴロゴロ野菜に肉の腸詰を一緒に煮込んだポトフ。そのポトフにミルクとチーズを入れて煮込んだホワイトシチュー。そのホワイトシチューにチーズとパン粉をまぶして焼き上げたグラタン。ホワイトシチューを冷所で冷やして固めた物をパン粉をまぶして揚げるクロケット。

 

「と、まぁこんなところでしょうか、一つの食材からこのようにバリエーションを変えられます。ミルクとチーズではなくトマトやデーツみたいなこの野菜で煮込んであげればトマトソースやボルシチという料理に早変わりです」

 

 次々に並べられる料理、見た目だけなら王族や貴族が食べていそうなそれら、全てこの食堂にある食材で作られている。アルはどれも美味しそうに食べているが、ジュナはあまり乗り気ではないようだった。

 

「ジュナさん、あまりお口に合いませんでしたか?」

「えぇー! ロアお姉ちゃんのご飯、美味しいよー!」

「ううん、とっても美味しい。それに勉強になります……あのロアさん」

「ないなんでしょう?」

「あの……やっぱり後で」

 

 ふむとロアは微笑む。アルが遊びに行くかお昼寝をするか待ってから話があるんだろう。案の定アルが沢山食べてお腹が一杯になったところでジュナはロアに教えてもらって作ったプリンの試作品を出してきて、

 

「ロアさん、お茶にしませんか? お話ししたい事もありますので」

「構いませんよ!」

 

 お茶の淹れ方も上手なジュナ、ロアが少し教えてあげればなんでもぐんぐん取り込むように覚えていく。

 お茶を入れて適当な椅子に座るとジュナは開口一番。

 

「ロアさん、いなくならないですよね?」

「お気づきになられていましたか」

「だってずっといてくれるならロアさんがさっきの料理を食堂で作って出してくれればいいだけなのに、あんな見た事もない珍しい料理を私に教えてくれるなんて、お別れみたいで……」

「ジュナさん、私はこの地域に迷い込んでしまったみたいなんです。とーとつに、ずっとジュナさんやアルさんと一緒にいられればそれは幸せな事に思えますが、もしかするととーとつにまた私は何処かに行ってしまうかもしれません」

「それってどこですか?」

 

 さて、東京なのか……あるいは天国なのか……ロアにも皆目検討がつかない。なのであの時こうしておけばという後悔をしないようにロアは行動していた。

 

「私にも分かりません。ロアさんに一つお願いを聞いてもらっていいですか?」

「なんでしょうか? ロアさんのお願いならできるだけどんな事でも」

「今度ミトラさんの宿に王様がやって来るのはご存知ですね」

「はい、街中お祭り準備みたいになってますから」

「王様へ出すお料理、ミトラさんが作ってくださいませんか?」

 

 パンケーキは毎日配達して買い取ってもらっているが、宿の料理となると話が変わってくる。

 

「それは……」

「いえ、蝋燭屋さんのバニングさんがお孫さんのカティさんを紹介してくださった時、二代目を出すとおっしゃっていましたので、私も私の弟子みたいなジュナさんにと……」 

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