第8話 バーメイドと異端審問

「ロアという、キキの街の青年に薬を作ったのはお前で間違いないか? そう王は申していらっしゃる!」


 王様の御前、されどその姿は一枚のカーテンで仕切られていて見えない。


「はい、薬というより薬膳酒ですが」

「薬膳酒とは先程貴様が説明した酒に薬草を漬け込んだ物だな?」

「はい」


 目下ロアは取り調べ中、教会が王国に異端審問をかけたのが事の始まり、一ヶ月教会が行った悪魔祓いでも改善しなかったヒータの症状がわずか一週間足らずで改善に向かっている事。ロアは魔女、あるいはヒータに悪魔を憑けた疑いを教会が報告。


「貴様はノビスの街の食堂に身を寄せていると聞いたがその前は何処で何をしていた?」

「東京という町のホテル。そうですね。貴族の方々が使うような宿の酒場でお酒の提供をしていました」

「で、照明する物がこれらの道具か……こんな物でどうやって酒を作る?」

「ふむ、もし今いくつかお酒や材料をご用意頂ければここで再現してみせますが」


 ロアのその堂々とした態度さらに品のある受け答えに王様との仲介役の大臣は王様の助言を聞いて答えた。


「では、望む物は何か? ここでそれら道具を使った実践を行ってもらおう」

「ありがとうございます。ではある限りのお酒、そして果物、砂糖や塩等の調味料を」


 しばらくすると長いテーブルに集められた食材酒類、調味料。それらを見てロアは王様にお辞儀をしてから大臣にもお辞儀。そして尋ねる。


「扱った事のない食材も多いのでテイスティングは宜しいでしょうか?」


 怪訝に思いながらも大臣は王様に許可を貰い、「構わん」


「ありがとうございます」


 さて、どうしようかロアはまず卵を一つ。ベコポンより黄色い果実。汁を舐めると酸っぱいレモン、いやシークワーサーに近い味がする。そして、証拠品としてヒータのところから徴収された薬膳酒。卵は卵白だけを使う、それらをシェイカーに入れてロアは振る。


「何を!」


 ロアは大臣を微笑、槍を向ける兵隊達もその行動に危険性はないとそのまま様子を見ているとロアのシェイキングは終わる。カクテルグラスがないので、ガラスのグラスにそれを注ぎ大臣に言う。


「まず、薬膳酒を使った、オリジナルカクテル。レディー・ドクター」


 次普段飲みされているであろうブドウの赤ワインにエールを注ぐ。隠し味に砂糖を一つまみ。


「万国共通のワインスプリッツアー」


 トマトらしい果実。一つ切って食べてみる。紛れもないトマト。これを潰し先ほどの酸っぱい果実の汁を混ぜて即席トマトジュースを作る。ジュースの三分の一の量のウォッカを注ぎ、故障と塩で味付け。


「ブラッディーメアリーになります。一先ずこんなところでいかでしょうか?」


 それらを大臣、そして重役の前で毒味役の兵が一口飲んで……


「おぉ! これは美味い! 今までに飲んだ事がない!」


 どのカクテルも大絶賛、数人の毒味役が皆一様に同じ反応を見せるので、大臣は……


「ロアよ、私にも一つ何か作ってはくれまいか?」

「かしこまりました。大臣様は甘いお酒はお好きですか?」

「あぁ!」


 冷たいミルク、多めの砂糖。ウォッカ。そしてコーヒー。


「ウオッカコーヒーミルクです」

「ミルクを……」


 怪訝な顔をしながら大臣はそれを飲み、「うまっ!」と思わず声に出した。それにカーテンで仕切られている王様が反応。大臣はすぐに王様の話を聞き、


「ロアよ。最後に我らがエリザベルト王に何か、果物を使った酒を」

「かしこまりました」


 果物の中からベリーをいくつかとり、それをハンドミキサーでジュースに変える。そこに砂糖、レモン汁。そしてハチミツで味付けし氷と白ワインを入れてシェイカーでカクテル。最後に砂糖漬けのレモンの皮を王冠のように結んでグラスに乗せる。


「お待たせしました。レガリア・ベリー・フィズ王の苺酒です」


 王宮の皆、カクテルという始めて見るお酒の飲み方に、そして王様の為にロアが作ったあまりにも美しいカクテルに感嘆する。大臣から王に届けられ、シルエットだけだが王がそれを飲んで、空になったグラスが戻される。


「王の判断を処す。心して聞くといい! ロア、いやロア殿は魔女にあらず。この度教会からの異端審問の判決は無罪。教会はロア殿に金貨300枚の賠償を命ず」


 それを聞いた教会側は頭を垂れ、ロアは夕刻には解放される事になる。非礼に関し王様自ら謝罪の念を大臣を通じてのべられる。


「とんでもありません。間違いは誰にでもある事でございます。それでは私はノビスの街の定食屋に戻らせていただきます」


 王の最後の質問。


「王はそなたは何者かと聞いている」

「私はしがないバーメイドですよ」


 食事を誘われたが丁重にお断り、その堂々とした立ち振る舞いに貴族達、特に女性の貴族は長いため息をつき。ロアを見送る。王様から謝罪の意味を込めて頂いた箱の中は何かの酒だろうかと思いながら、寄り合いの馬車の前でロアは誰もいない事を確認してしゃがんだ。


「はぁ……流石に焦りました。はは、足なんてガクガクですね……」


 

 

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