第7話 バーメイドと薬膳酒
「本当にこんなに頂いていいのでしょうか?」
「じぃさんが持っていけって言ったんだから気にせず持ってきな! ロアさん、酒場の女店主なんだろ? 今度その酒飲みにいくさね?」
「是非! 最高のお酒をお出ししますよ!」
まさかまさかのウォッカを手に入れてしまった。ウォッカがあればあらゆるカクテルを作る事ができる。ロアは珍しく乙女の表情でそれらを抱きしめる。
「アリィさん、ヒータさんの待つ家に戻りましょう。私が用意できる最大限の物をお作りします」
キャラバンのみんなにお礼を言ってロアはこのウォッカを今後定期的に買いたいと、その契約も行って足早にアリィの家に戻る。戻ってくるやいなやロアは厨房に入る。
ソバソの粉を水と塩、そして溶き卵を入れて練り混ぜる。そしてそれを焼いていく。その間にロアはウォッカを一瓶取り出してキャラバンで購入したハーブの各種を取り出し刻む。
「ロアさん、何かお手伝いする事はありませんか?」
「そうですねぇ。ではこれら刻んだハーブをすり潰して頂けますか? できる限りゆっくり熱を与えずにお願いします」
「は、はい!」
冷たい井戸水の中にヤギのミルクを入れた瓶を冷やしておく。実際飲む時は温めるのだが、足が速い(腐るのが速い)ミルクを保存しておく為にロアはこの方法を取った。
アリィがハーブをすり潰し終わったのを見てロアは、
「アリィさん、ではミルクを温めてこちらガレットをヒータさんへ、ゆっくり少量食べてもらってください。すり潰して頂いたそれは受け取ります」
「あっ、はい!」
おそらく
「しかし、元の世界に戻れた時、一度師匠にお礼を言いに行かないといけませんね。バーマンはあらゆる知識に広く浅く精通しないでしたっけ? 感謝してますよ」
ロアはバーメイドの修行時代の事を思い出しながらハーブを混ぜたウォッカのボトルを暗所に置くとヒータの寝室に向かう。
「美味しいよアリィ、ごめんな……僕が悪魔憑きになってから君に苦労ばかりかけて」
「そんな事言わないでヒータ、無理しないでね?」
「うん」
二人の会話を邪魔しないようにロアはヒータの寝室にノックをして入室した。そして開口一番。
「ヒータさん、ご加減はいかがでしょうか?」
「ロアさん、これらのお料理を作って頂いたそうですね? とっても美味しいです! それに気分もとてもいいです。悪魔も何処かに行ってしまったみたいですね!」
悪魔。
ロアはヒータの方が信心深いのだなと言葉を選び考える。相手を不快にせず、そして納得させるトーク。
バーメイドとして大事なスキルだ。
「ヒータさん、貴方の身体はパンや小麦等、そして牛のミルクの食べ物を受け付けない体になっています。パンの代わりにソバソを使ったガレット。牛のミルクの代わりにヤギのミルクを飲んで頂きましたが症状は出ないようですね。蕎麦もアレルギーがあるので少し賭けでしたが、当分はこちらをメインに食べてください! もし食べたい食材があったらまず少量を食べて十分程待ってみて問題なければ少しずつ食べてみてください」
牛乳にはアレルギーになりやすいタンパク質が含まれているのだが、ヤギのタンパク質はアレルギーになりにいくい。とはいえヤギミルクもアレルギーがないわけじゃない。少しずつ様子を見るように、小麦粉の方もグルテンが問題になっているのでそれを含まれていない蕎麦を主食に。
初めての低アレルギー食を食べ終え三時間が経過、ヒータにアレルギーの症状は出ず。初めてゆっくりと昼寝を始めた。食べる事にも力を使い、安らかに日々を過ごせた事はここ最近なかっただろう。
ネロは寝息を立てているヒータを見てアリィに伝える。
「しばらく様子を見て食事量を少しずつ増やしてください。ガレットに卵を入れてますけど圧倒的にタンパク質……そうですね魚や動物の肉が足りていません。食後一時間経って症状が出ない時に魚や肉を少し食べてもらって症状が出なければ食事にそれら魚や肉を出してあげてください。万が一症状がでた時は食事を減らして何を食べた時に症状が出るか調べてあげてください」
「分かりました。ロアさん、本当にありがとうございます!」
ロアは医者ではない。もしかするとちゃんとした日本の医者ならもっと良い方法を伝えてくれるのかもしれない。だが、自分に出来る事はここまで……いや、あと一つだけ思い出した事があった。
「アリィさん、キッチンの戸棚に先ほど作った薬膳酒があります。十日程経った頃が飲み頃になるんですが、ヒータさんの具合が悪くならない日、小さなキャップに一口分、夜に寝る前に飲ませてあげてください。きっと元気になります」
「でも、お酒なんて」
「私の住んでいる地域では健康酒や栄養ドリンクとも言うんですが、お薬になるお酒があるんです」
薬になるというのは実は語弊があるが、滋養強壮の補給になる。人間具合が悪くなれば食べない方がいい。が、ヒータの場合は栄養失調の疑いがある。しっかり食べて休息を取る。
「本当に、ロアさんはなんでも知ってるんですね?」
「なんでも知ってるわけではないんですけどね。もし何かあればまたジュナさんとアルさんの食堂へいらしてください。それでは私はそろそろ戻ります」
それから三日後、アリィがヒータを連れてお店に来てくれた。起き上がれるくらいにまで元気になったヒータにロアは微笑む。
「あの、ロアさん、お支払いの方を」
「その件でしたら一杯飲んで行かれませんか? そのお代という事で、私の方も今回ウォッカを沢山頂いたのでそれで十分です。お金はちゃんと結婚費用にお使いください」
二人は涙ながらにありがとうございますとおすすめの一杯を所望。それに応えるロアはウォッカとベコポンを混ぜた。
「スクリュードライバーです」
カクテルを出した時、王国からの使いという者が店に入ってきた。
「邪魔するよ? ここにロアって人はいるかい?」
「はい、いらっしゃいませ。ロアは私ですが」
「あんた何やったの? 教会経由で出頭命令来てるよ」
そう言って渡された真っ白な刻印のある手紙。そこには何が書かれているのか分からないが、ロアは受け取り配達人にも微笑を向ける。
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