第16-1話 賀川について

 賀川の悪事を先生にバラした日の翌日、賀川の席に賀川の姿は無かった。


 沢田先生は賀川を職員室に連れて行った後、賀川がしでかした悪事について根掘り葉掘り訊いたらしい。


 流石に今回の件に関しては目撃者が多すぎて賀川も反論ができなかったようで、俺たちの教科書を破いたことを正直に白状したのだそうだ。


 そして賀川に言い渡された罰は自宅謹慎1週間。


 ようやく賀川が自分の犯してきた罪を償う時がやってきたのだ。


 しかし、それ以外のこれまでの俺たちにしてきた悪事に関しては認めようとせず、とてもではないが反省をした様子ではなかったとのこと。


 どれだけ罰を受けようとも賀川自身が変わらないのであれば何も意味はない。


 まあなんにせよ、俺たちのクラスにはしばらくの安寧が訪れているのは紛うことなき事実。


 まずは賀川に罰が与えられたことを喜ぼう。


 そしてお昼休み、今日も俺は蔦原と2人で弁当を食べていた。


「ふぅ〜〜まだ長時間座るのには慣れないね〜」

「そうだな。家でゲームとかしてる時はずっと座ってられるのに授業中は10分でもうじっとできなくなりそうだ」

「まあでも賀川君がいないからかなり気楽に授業を受けられるってのは間違いないんだけどね」

「ようやく気を張らずに授業が受けられるよ」

「どう? 賀川君がいなくなってみて」


 蔦原からの質問には、これまで俺たちが受けてきた嫌がらせの数々を考えれば、『スッキリした』と答えるべきなのだろう。


 しかし、俺の口からその言葉がスッと出てくることはなかった。


「うーん……。どうだろうな。そりゃ清々したっていうのは間違いなけど……。ちょっと気になることもあるって感じかな」


 賀川から思い出したくない程酷い嫌がらせを受けておきながら、俺は賀川のことが気になっていた。


 賀川はなぜいじめをしているのか、賀川がいじめをやめてしまったら不登校になるのではないか、そんなことを考えてしまっている。


「そうだよね。私もそう思ってる」 


 蔦原も俺と同じことを考えていたようだ。


 まっ、そうなんじゃないかとは思ってたけど。


「多分そうなんじゃいかとは思ってたけどやっぱり蔦原も同じこと考えてたのか……。流石信頼度100%って感じだな」

「以心伝心だね」

「まあそうは言っても、賀川はきっと謹慎が開けたらまた俺たちに何かしら嫌がらせをしてくるだろうからなぁ。そうなったら賀川のことを心配してる余裕なんてあるわけないんだけど」


 そう、俺たちがどれだけ賀川について家になったとしても、賀川が俺たちに嫌がらせをしてくる限りは何も前進しない。


 まずは賀川から嫌がらせを受けない程度の仲にならなくてはならないのだ。


「そうだね。まずは賀川君と話してみないといけないのかもね」

「そうだな。とりあえずは復帰してきたら様子見ってことで。もしかしたら謹慎に懲りてもう手を出してこないかもしれないし」

「そだねっ。そう信じておこう。とにかく今は素直に気楽に学校生活を送れるのを喜ぶとしましょう」


 そして昼食を食べ終えた俺たちは教室へと戻った。

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