第15-3話 再びの撃退
俺が教科書をビリビリにしたのは賀川であると先生にチクった瞬間、教室中の空気は凍りついた。
それは誰もがいじめっ子の悪事を先生にチクるのは悪手であると理解しているからだ。
賀川の悪事を先生にチクったところで先生が対策を取ってくれるとは限らないし、そうなった場合いじめがエスカレートすることは避けられない。
それならば、賀川の悪事を沢田先生にバラすのはやめておいた方が良かったのではないか、と思う人がいるかもしれないがそこは心配ご無用。
なんてったって今の俺には蔦原がいる。
仮に沢田先生がなんの対応もしてくれず賀川からのいじめがエスカレートしたとしても、包丁で刺されるくらいの実害が無い限りは耐えられる自信があるのだ。
「そ、染谷お前っ--」
「賀川」
「はっ、はいぃ⁉︎」
沢田先生は賀川に鋭い眼光を浴びせる。
「事情聴取だ。職員室に来なさい」
「お、俺は何も−−」
「賀川!」
「は、はいっ、……」
沢田先生は語気を強めて賀川の名前を呼んだ。
「ホームルームは終わりだ。1時間目が始まるまで読書でもしててくれ」
そして沢田先生は教室を後にした。
先生に続いて教室を出るために入り口の方へと向かっていった賀川は、俺をキッと睨みつけてから教室を出て職員室へと向かっていった。
今日もなんとか上手く切り抜けられたな……。
毎度毎度上手くいくとは限らないが、今日は沢田先生次第でもある作戦だったので、沢田先生が毅然とした態度をとってくれて助かった。
もうお気づきの人もいるかもしれないが、今の作戦には賀川を撃退するという目的と、もう1つ、先生を試すという目的があった。
賀川のいじめに対して全力を尽くすと言ってくれてはいたが、俺たちが不登校になった時は何もしてくれなかったわけだからな。
今回の沢田先生の対応で沢田先生に対する信頼度も30%くらいまでは回復した。
そして予想してはいたが今回も……。
「うおぉぉぉぉぉぉ! お前やっぱすげぇよ染谷! もう完全に賀川の倒し方分かってるじゃねえか!」
「染谷君すごすぎるんだけど! 私と結婚して!」
「おいずるいぞ! 俺と結婚してくれ!」
俺が再び賀川を撃退したことで、先日と同じようにクラスメイトが俺の元へと群がってきた。
いやというか俺めっちゃ俺と結婚したい奴がいるんだけど誰だよ人が群がりすぎて分かんねぇんだけど。
あと男で俺と結婚したいって言った奴ちゃんと責任とって俺と結婚してくれよ。
……これが学校に来ることの楽しさなんだろうな。
まあ今は賀川を撃退したことによる賞賛ではあるが、体育祭や文化祭でクラスメイト全員で何か成し遂げて讃え合う、それはまさに誰もが思い描く理想であり、学生の醍醐味とも言えるだろう。
蔦原と出会う前はその理想にすら気付けていなかったが、そんな学校生活にできたとしたら最高だなと、しみじみ思うのである。
「先生に読書してろって言われただろ。ほら、戻った戻った」
そう言いながら俺の席に群がるクラスメイトを少しずつ自分の席へと戻し、ほとぼりが冷めてから俺は蔦原の席へ行き蔦原に声をかけた。
「今回も上手くいったな」
「ちょっと紅すごすぎない? 賀川君が嫌がらせしてくることを想定して、対策考えてきてたの?」
「対策を考えるも何も先生にチクっただけだけどな。それに先生が前みたいに今回の件を大事にしたくないとか、大人の事情でちゃんと対処してくれなかったら反感を買うだけで終わってただろうし。行き当たりばったりだよ」
「意外と大胆なんだね。でも……かっこよかったよ?」
「--かっ⁉︎」
唐突な言葉に俺は顔を赤面させる。
かっこいい、だなんて生まれてこの方女子から言われたことなんてない。
いや男子からもないけども。
とにかくそんなこと言われ慣れていない俺は、顔を赤くする以外何もできず手で顔を隠していた。
とにもかくにも、今日も無事賀川を撃退できてよかった。
とはいえ、いくら沢田先生に注意をされたとしてもこれで懲りて手を出してくることがなくなるとは考えづらい。
いじめが更にエスカレートすると思って気を引き締めて対策を考えないとな。
これからも蔦原を守れるよう、必死に、がむしゃらに頑張っていこう。
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