第17-3話 ゲーセン

 染谷たちに自宅に押しかけられた俺は渋々家を出て、染谷たちの後ろを歩く。


 俺の前を歩いている染谷たちはというと、俺のことは放ったらかしで楽しそうに雑談をしている。


 わざわざ自分をいじめていた俺を家まで呼びにきて、一緒にゲームセンターに向かうだなんて何を考えているのか本当に理解できない。


 ゲームセンターは遊びに行くところであって、そんなところにいじめをしていた俺が参加をしたら面白くなくなってしまうだろう。


 だから俺のことをゲームセンターに誘うなんてありえない。


 ……いや、待てよ?


 これ、もしかしてゲーセンに行くと言っておきながら、これから人目につかない場所に俺を連れて行ってボコろうとしてるんじゃねぇか⁉︎


 そ、そういうことか……。


 それならわざわざ俺の家までやってきた理由も理解できる。


「着いたぞ。ゲーセン」

「え?」


 俺は今からボコられるためにどこかに連れて行かれるのだと考えていたが、人気の少ない場所ではなく本当にゲーセンに到着してしまった。


「どうした? そんな呆気に取られた顔して」

「……いや、えっと、トイレでボコるのか?」

「……いや、ボコらねぇよ。なんでボコられる前提で話してるんだよ。ほら、早く行くぞ」


 ボコらない?


 この期に及んでまだしらを切っているのか?


 どうせゲーセンにどこか四角になるような場所で俺をボコるつもりなのだろう。

 普通に考えたら人をボコれるような死角がゲーセンにあるとは思えないのだが……。


「ほら、これだ」

「は? これって……」

「ほら、そっち座れよ」

「え、え?」

「覚悟しとけよ。今からお前のこと、ボコってやるかるな」

「え、あ、な、なぁ、ボコるってこれで?」

「ああ、これでだ」 

「……これって格ゲーだよな?」


 俺が座らされたのは格ゲーをプレイするための椅子。


 大きな機体の前に座らされ、その向かいにある機体には染谷が座った。


「よーし紅やっちゃってよね! 今までの鬱憤はらさないといけないんだから!」

「ゲームならどれだけボコっても大丈夫。ボッコボコにして」

「たのんだよ染谷君!」

「染谷君、お願いします!」

「おいちょっと待てって!」


 状況が飲み込めない俺は席を立ち、染谷たちを静止した。


「なんだよ。怖気付いたのか?」

「そんなわけねぇだろ! お前ら一体なんのつもりなんだよ」

「何って、賀川にいじめられてた分今からやり返そうと思って」

「や、やり返すっておまえ……。ゲームでボコボコにするだけがやり返しになんのか?」

「あたり前だろ。ボッコボコにしてやるから覚悟しとけよ」  


 いや、覚悟しとけよと何も、ゲームでボコボコにされても痛みも感じないしそれがやり返しなるとは思えない。


 俺が今まで与えた苦痛も、染谷に怪我をさせた時の痛みも、ゲームでは何も返ってこないじゃないのだろうか。


「はぁ……。わかったよ。やればいいんだろやれば」

「泣いて謝っても手加減してやんねぇからな」

「手加減なんていらねぇよ。本気でかかってこい」


 こうして俺は染谷たちと仁義なき戦いを始めた。

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