第17-4話 ボコボコ

「ああああくそもう1回だ!」

「何度でも受けて立ってやる」


 賀川とゲームを始めてから次でもう10戦目。


 賀川は俺のキャラにほとんどダメージを与えることなく俺に完膚なきまでに叩きのめされていた。


 ゲームセンターで格ゲーをやると聞かされた時は、『ゲームでボコボコにされたって痛くも痒くもないんだが』なんてのんきに考えていたはずだが、今となってはムキになって負けるたび俺に再戦を申し込んでくる状態。


 もちろんいじめられた腹いせに賀川をボコボコにしているというわけではない。


 とはいえ、流石に多少スッキリしている自分もいる。


 そんな自分を心の奥底に隠しながら迎えた10戦目も、俺は賀川のキャラクターを自分はノーダメージでフルボッコにした。


 機体の向こう側から「ぐぬぬぬぬぬ」とや悔しがる声が聞こえてくる。


「なんなんだよおまえ⁉︎ 俺だってやったことがねぇわけじゃねぇってのになんでそんな強いんだよ⁉︎」

「まあ賀川のおかげかな」

「は? 俺のおかげ? てめぇこの期に及んで皮肉でも言ったつもりか⁉︎」

「お前にいじめられて不登校になってる間、ずっとゲーセンに入り浸ってたんだぞ? そりゃ強くもなるだろ?」

「そっ、そうか……」


 俺が賀川のせいで不登校になり大事な高校生活の数ヶ月間を、ゲームセンターで無駄に過ごしたことを聞いた賀川はバツが悪そうにしている。


「なぁ賀川。俺さ、お前のこと簡単に許せるほど人間できてないんだわ」

「あ、改まってそんなこと言われなくても分かってるよ……。俺がそれだけのことをしでかしてるってのは自分が1番理解してんだから」


 ここにきて俺たちに対する賀川の態度が急激に変化してきている。


 ついここの間まではいかにして俺たちを再び不登校にしてやろうかと嫌がらせばかりしてきていたのに、今は若干しおらしさすら感じる程だ。


 やはり本当の賀川は金田が言っていたように困っている人を助けることができる人間なのだろう。


「頼む。今後いじめは絶対しないって約束してくれ」

「……は? なんだよそれ。何でお前にそんなこと言われなきゃ……」

「俺さ、お前と友達になりたいんだよ」


 俺は賀川に自分の想いを告げた。


 俺には男友達がいない。


 金田とはまあ一応もう友達になったと言ってもいいのかもしれないが、本当の意味ではまだ友達にはなれていない。

 金田はただ、賀川が昔の賀川に戻るように俺たちに協力してくれただけだ。


 だから、俺は高校でできた始めての友達を、賀川にしたいんだ。 


「はっ? お、お前何言って……」

「ダメなのか? 俺が賀川と友達になりたいって思ったら」

「だ、ダメじゃねぇけど……理解できねぇよ。俺にいじめられて不登校にまでさせられて、こないだ怪我までさせられたっていうのに……」

「賀川の昔の話、金田から全部聞いたよ」

「か、金田おまえっ」

「ご、ごめん‼︎ でも、僕、どうしても賀川君に昔みたいな賀川君に戻ってほしかったんだ」

「変な話だけどさ、俺も賀川にいじめられてたから賀川の気持ちは分かるんだわ。今俺は蔦原と2人で学校復帰してきて強力してるからいいけどさ、今蔦原に裏切られたらもう2度学校には来れないと思う。すげぇよ賀川は。諦めずに自分が学校に通う方法模索してさ、それ実践してんだから」


 俺が賀川に想いをぶつけると、賀川はしばらくの沈黙の後に話し始めた。


「……どれだけ謝罪したって俺がしでかしたことはなくならなぇ。だから俺は絶対にお前とは友達になれない」

「な、何言ってんだよ。いじめられてた俺がいいって言ってるんだからそれでいいじゃないか」

「いや、ダメだ。絶対ダメだ。このままお前らと友達になるなんて絶対できねぇ」


 俺が許すと言っているのに、賀川は意固地になってしまい俺の話を聞こうとしない。


「だからいいって言ってるだろ。俺は賀川を許す--」

「ちょっと俺学校行ってくるわ」


 賀川は突然わけの分からないことを言い出した。


 今日は土曜日で授業もない。


 それなのに学校に行って何をしようというのだろう。


「……は? 学校?  ってちょ、ま、待てよ!」


 こうしてゲームセンターを飛び出して行った賀川を俺たちは走って必死に追いかけ始めた。

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