第17-2話 好きな場所

 玄関の扉を開けてしまえば染谷たちは即座に殴りかかってくるのではないかと思っていたが、殴りかかってくる様子はない。


 俺に反撃をしに来たわけではないのか?


 だとしたら一体なんの目的があって俺の家までやってきたのだろうか。


「……何しに来たんだよ」


「……」


 俺の問いかけに返事をしてくる様子はない。


 ただでさえ自分をいじめていた奴の家にやってくるというわけのわからない状況なのに、染谷たちが話出さなければ俺には今の状況を理解することはできない。


「お、おい。なんとか言えよ。わざわざ自分をいじめてた奴の家まで押しかけてするってことはどうせ復讐が何かなんだろ? それなら早く済ませて--」

「なぁ賀川、ゲーセン行こうぜ?」

「……は?」


 ゲーセン?


 なんで染谷が俺をゲーセンに誘うんだ?


 自分をいじめていた相手の家に仲間を連れてやってくるだけならまだ、復讐をしに来たのではないかと予想できるが、ゲーセンに誘うだなんて理解できないし頭おかしいんじゃないかコイツ。


 普通の人間なら自分をいじめていた相手をゲーセンに誘うなんてわけの分からないことはしない。


 下手に関わればまたいじめられる可能性だってあるし、そもそも自分をいじめていた相手と一緒にいるなんで気分が悪いし面白くないだろう。


 それなのになぜ……。


「いくだろ? ゲーセン」

「なっ、なんで俺がお前らとゲーセン行く前提なんだよ。行くだなんて一言もいってねぇだろ」

「でも別に用事があるわけじゃないんだろ?」

「用事なんて無くたってそもそもお前たちと一緒にゲーセンになんて行きたくねぇんだよ」

「……ほら、いこうぜ?」

「だから行きたくねぇっていってるだろ⁉︎」


 な、なんだこいつ……。


 俺は何度も行きたくないって言ってるのに、まるで俺の話を聞いていないかのように返事してきやがる。


 ここまで話が通じないやつはこれまでの人生で一度も見たことがない。


 ……染谷ってこんなに強気な奴だったっけか。


 そもそも俺が染谷をいじめ始めたのも、地味で根暗で1番いじめやすそうだったからだ。


 そんな染谷が、何がどうしたらこんなに強気で俺をゲーセンに誘える様になるのだろう。


 そんな染谷の視線を見て、俺は昔の自分を思い出した。


 そうだ。昔の俺も、こんなに風に真っ直ぐな視線で困っている人を助けようとしていたんだ。

 自分のことなんて顧みず、ただひたすらに困っている人だけを助けようとしていたんだ。


「よし、それじゃいくか」

「あ、おい待てって! 俺は行くだなんて一言も……」

「おーい、早く来ないと置いてくぞー」

「1人で寂しい土日を過ごしたければどうぞー」


 クソがっ。


 染谷と蔦原のやつ、絶妙に俺が腹立つことばっか言いやがって……。


 その2人の横で、俺の方を向いてニヤニヤしている和泉と臼井、そして金田が更に俺の心を逆撫でる。


「ああもう行けばいいんだろいけばぁ!」


 こうして俺は奇妙にも、自分がいじめていた奴らに誘われて一緒にゲームセンターに行くことになった。


 いくら染谷たちにしつこく誘われたからと言って、あのまま家に入って立て篭もることだってできた。


 それなのにそうしようとしなかったのは『どこかに連れ込んでボコボコにしてくれれば今までの罪を償った気になれるから』というのもあるが、心のどこかに助けを求める自分がいたのかもしれない。

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