第9-3話 あの言葉

「ねぇ紅、これ見て見て!」

「あのなぁ……。勉強する気あるのか?」


 私は真面目に勉強している紅の横で、勉強に集中することができず机の上に置かれた紙ナプキンで鶴を折っていた。


 鶴が完成してすぐ、私は紅にその鶴を見せびらかすが、当たり前のように紅に呆れられてしまう。


 勉強そっちのけで鶴なんて折っていれば呆れられて当然。

 それも、真面目に勉強している横で鶴なんて折られてしまえば集中力がなくなってしまうし、腹が立つだろう。


 私だって鶴が折りたくて折っているのではない。


 できることなら鶴なんて折らず真面目に勉強したいと思っている。


 それでも私が鶴を折っているのは、こうでもしないと私の頭がおかしくなりそうだったからだ。


 先日遊園地に行った時、帰り際に私は紅からとある言葉を伝えられた。


 それはもう、口にするのも憚られるような……。


 とはいっても、誰かに言えないような卑猥な言葉を言われたわけではない。


 私は紅に『好き』と言われたのだ。


 アレは聞き間違いでもなんでもない。


 焦って『風の音で聞こえなかった』なんて言って誤魔化してしまったが、私の耳には紅の言葉がしっかり届いていた。


 その言葉を言われた瞬間のことを思い出すと、思わず顔が真っ赤になってしまいそうなので、今もできるだけその時のことは思い出さないように努めている。


 しかし、どうしても頭の片隅にその瞬間のことが残って消えてくれない。


 だから私は鶴を折ることでその時のことを忘れようとしていたのだ。


 とはいえ、それで勉強が捗らなくなるのは紅に迷惑がかかるし、私たち2人の計画が頓挫してしまうことにもなりかねない。


 とにかく勉強に集中しなければ。


 あー、勉強しようって誘った時は気まずくならないようにと思ってすぐに誘ったけど、こんなことになるならやめとけばよかったかな……。


「ご、ごめん……。そうだよね。私、集中力全然なくてさ……」


 紅は良いよなぁ。


 私に『好き』という言葉を伝えたことは無かったことになっているのだから。


 その言葉を言ったことが無かったことになっていなかったとしたら、紅だって赤面せずにはいられなかっただろう。


 というかそもそも、こうして今2人で一緒にいなかったかもだけど。


 紅は何を思ってあんな言葉を伝えてきたんだろう……。


 というか、あの言葉を伝えられたことが無かったことになっていなかったとしたら、私は何を考えて、どう返答したのだろう。


 そんなことを考え出すと、更に頭が混乱してしまいそうだ。


 いや、今はとにかくそのことは忘れて、真面目に勉強しようっ。


 じゃないと2人で学校に復帰しても、またすぐ不登校になってしまうかもしれないのだから。


 そう考えると、やっと少しだけ真面目に勉強することができた。

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