第9-2話 勉強できない
「ねぇ紅、これ見て見て!」
教科書を広げて10分。
蔦原から声をかけられた俺は視線を上げて、蔦原の方へと視線をやる。
すると蔦原はとあるものを俺の方へと自信満々に突き出してきた。
「あのなぁ……。勉強する気あるのか?」
俺の目に飛び込んできたのは、紙ナプキンで折られた鶴だ。
あまりにも綺麗な鶴だったのでその出来栄えを褒めてやりたいところだが、勉強に集中したい時に鶴を折るなんて言語道断である。
蔦原は元々成績がいいので勉強する必要はないかもしれないが、必死に勉強している横で鶴を折られると流石に集中力がなくなってしまう。
あまり口うるさい男だとは思われたくないが、これは自分たちのためだと言い聞かせながら蔦原に注意をした。
「ご、ごめん……。そうだよね。私、集中力全然なくてさ……」
「それでよくいい成績なんてとれてるな」
「え、だって教科書の内容なんて1回見たら大体記憶できるじゃん」
……蔦原はどうやら信じられない才能の持ち主のようだ。
普通の人間は何度も教科書を読み込んで、ノートなどを取ることで少しずつ脳内に記憶していく。
その作業をする必要がない蔦原はもはやゲームでチートを使っているようなものだ。
勉強ができない人の前でそんな発言したらキレられるぞ……。
「普通の人間はそんな簡単にテスト範囲を記憶できる程よくできてねぇよ」
「ふーん。そうなんだ」
「それだけ賢ければ蔦原が留年する心配はなさそうだな」
「頼むよ相棒! 留年されたら寂しいじゃ済まないからね」
「友達がいない分勉強する時間だけはたんまりとあったはずなんだけどな……」
「教えてもらう人がいないから捗らなかったんじゃない?」
なるほど、確かにそう言われてみれば答えに悩んだ時には時間をかけることで答えにたどりつくしかなかった。
勉強する時間だけは長かったから勉強した気でいたが、そんなところでもぼっちの影響が出ていたとはな……。
「そう言われてみればそうかもな」
「じゃあもう大丈夫だねっ。紅には私がいるんだから」
「--っ」
蔦原の発言が勉強のことを指しているのは百も承知。
だがしかし、『紅には私がいるんだから』という言葉が勉強だけでなく、普段の生活のことも指しているような気がして思わず顔を赤らめる。
「……そうだな。頼むぞ、先生」
「任せてよっ。私、人に教えるの結構好きなんだよね〜」
「さっきまで俺に勉強教える気もなく鶴をおってた奴の発言とは思えないな」
「ちょ、もうおらないから許してよいじわる〜」
勉強をするのは好きではないし、これまではただなんとなくいい成績をとらなければと思いながら勉強をしていた。
しかし、今の俺には勉強をしなければならない明確な理由がある。
俺だけ留年して蔦原をひとりぼっちにさせるわけにはいかない。
何がなんでも進級してやる。
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