第16-7話 やり切った紅
「って感じなんだ……」
金田から聞かされた賀川の過去に、その場にいた俺と蔦原、そして和泉さんは驚愕し目を見合わせた。
「まさか賀川にそんな過去があったなんてな……」
「うん……。だからっていじめをしていることが許されることはないけど、流石にその話聞くと賀川君が私たちをいじめるようになったのが全部賀川君のせいだとは言えなくなっちゃうね……」
蔦原のいう通り、どんな理由があろうとも賀川がいじめをしていることが正当化されるわけではない。
俺だって賀川のことは許したわけではないし、ちゃんと罪を償ってもらいたいと思っている。
しかし、賀川の過去を聞いて、俺の心の中には怒りの感情が沸々と煮えたぎっていた。
それは賀川に対する怒りではない。
蔦原がいじめられて不登校になった、と話を聞いた時と同じ怒りだ。
なぜ誰かを助けようとしていた賀川がいじめられるようにならなければならないのだろうか。
そんなことは絶対あってはならないし、賀川は完全に被害者である。
とは言っても、賀川をいじめた奴らに復讐をして、はい終わり、という簡単な話ではないが、まずやらなければならないのは、賀川の過去のトラウマを消し去ってやることだろう。
「なぁ、こんなお願いされてもみんな納得できないとは思うんだけどさ」
「いいよ。私は」
蔦原は俺が自分の考えをみんなに伝える前に返事をしてきた。
「え、まだ何も言ってないんだけど」
「何言ってんの。私たち、信頼度100%なんだよ? 紅が考えてることくらいすぐ分かるって」
「蔦原……」
「それに私も同じこと考えてたから。和泉さんちゃんは納得できないかもしれないけど……」
「わ、私は……。正直いじめられてた時、手加減のようなものを感じたんです。だから、本当は賀川君って悪い人じゃないのかなって。だから私も、同じ気持ちです」
俺は運がいい。
蔦原に出会ったことも、それをきっかけに臼井や和泉と出会えたことも。
蔦原と出会って、蔦原が一緒に学校に復帰しようと言ってくれたからこそ、こうして蔦原や泉さんのような人たちと巡り会えたのだ。
蔦原には感謝してもしきれない。
「みんな……。ありがとう。それじゃあ俺、明日までに考えるから。どうやって賀川のトラウマを消し去ってやるかを」
俺は賀川にいじめられて不登校になった。
正直に言ってしまえば賀川を助ける義理なんてないのかもしれない。
それでも俺は、賀川を助けたいと思ったのだ。
今俺の周りには、俺に協力してくれる人がたくさんいる。
俺は1人じゃない。
こうして俺はそれから授業中も帰宅後も、どのようにして賀川のトラウマを消し去ってやるかを考えていた。
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