第16-6話 賀川の過去
腹が立つ。
本当に腹が立つ。
「……くそがぁぁぁぁぁ!」
染谷たちにいじめを止められ、挙げ句の果てには仲間だと思っていた金田にまでいじめを止められてしまった。
染谷たちの行動に腹が立った俺は感情のままに学校を早退してきた。
そして、道端に落ちていた空き缶を思いっきり蹴飛ばして叫んでいる。
なんであいつら俺に歯向かってくるんだよ。
前いじめてた時は歯向かおうとせず静かにいじめられてただけだったくせに。
染谷と蔦原が学校に復帰してきたときは、またあいつらをいじめて不登校にさせてやろうと考えており何度も嫌がらせを仕掛けた。
しかし、あいつらは不登校になるどころか俺に歯向かうようになり、不登校になる兆候は一才見えてこない。
再び不登校にしてやりたいと考えていたが、歯向かわれては面倒なので俺はいじめのターゲットを同じクラスの和泉へと移すことにした。
いじめに対して敏感な蔦原には、蔦原自身をいじめるよりも他の誰かをいじめた方が効果があると考えたからである。
俺の考え方は間違っていなかったようで、俺が和泉をいじめていると必死の形相で蔦原が俺の元へとやってきた。
思った通り、としたり顔を浮かべたものの、結果的には蔦原、染谷、そして金田にまで歯向かわれた俺はこうして学校から逃げてきた。
本当に腹が立つ。
俺は悪くない。俺が何をしたって言うんだよ。
俺はただ、静かに学校生活を終えられればそれでいいってのに……。
いや、ただ静かに、誰にもいじめられず に学校生活を送るための手段が間違っていたのだろう。
それはもう理解している。
何をしたっていうんだよ、なんて思ってみたものの、何をしてきたかなんて言うまでもないのだから。
染谷に怪我させちまったのはやばかったしな……。
俺だって怪我をさせよとして怪我をさせたわけではない。
蔦原の言葉にカッとなって頭に血が昇ってしまい、思わず缶を投げてしまった。
まさかそれがコントロール抜群で染谷に直撃するなんて思ってもいなかったが。
流石に流血させてしまったのだから停学、なんなら退学すら免れないだらう。
でももうこれ以上頑張る必要はないのかもしれない。
頑張って1人にならないように、やりたくもないのに誰かをいじめて本当の自分を隠しながら生きてきたが、もう自分のやってきたことを認めて罪を償うべきだろう。
金田のいう通り、俺は昔、誰かをいじめるような人間ではなかった。
むしろいじめられている人を助ける側の人間だったのだ。
いじめられている生徒がいれば手を差し伸べ一緒にいじめられる。
自分で言うのもなんだが、そんな心優しい人間だったのだ。
それなのに俺が人をいじめるようになったのには明確な理由がある。
中学時代、俺の中学には今の俺と同じようないじめっ子のボスがいた。
そいつは自分の思い通りにならない同級生を見境なくいじめていたのだ。
そのいじめはどんどんエスカレートしていき、数人が不登校に追い込まれていた。
それでも学校側はいじめを見て見ぬ振りで、対応をしようとはしていなかった。
そんないじめっ子のボスの行きすぎたいじめを見かねた俺は、ボスのいじめからクラスメイト3人を助けた。
いじめっ子のボスは気に食わない様子だったが、俺が助けた3人はみんな俺に『ありがとう』とお礼を言ってくれた。
その翌日、これで少しはいじめも治るだろうと楽観的に考えながら登校してきた俺は自分の目を疑った。
下駄箱に入れられたシューズはボロボロにされ、教室の机には『死ね』などの落書き、そして机の周りにはバラバラに破り裂かれた教科書が散乱していた。
そして、俺の心を折る原因となったのは、その机の横に立っていたいじめっ子のボスの周りに、俺が助けたいじめらていた生徒が立っていたのだ。
それもハサミをもって、ニヤニヤと俺の方を見ながら。
まさか自分が助けた生徒に裏切られ、いじめられるとは思っていなかった俺の心は折れてしまい、エスカレートするいじめに耐えきれなくなった俺は不登校になってしまった。
なぜ手を差し伸べた側の俺がいじめられなければならないのか。
それも、自分が助けた同級生にまで裏切られて。
そんな怒りと悲しみを抱えた俺は、沸々と湧き上がる想いを抑え、なんとか学校に戻って高校には進学できた。
そして高校生になった俺がどうすれば平穏な学校生活を送れるのかと考えた時、俺が取った方法は、俺がいじめっ子になるというものだった。
そうすれば絶対に俺がいじめられることはないのだから。
そうして幼馴染の金田を味方につけて、俺はこれまでたくさんのいじめをしてきた。
染谷や蔦原を不登校にさせて人の人生を狂わせてきた。
その報いが今やってきたと考えると、染谷たちの反乱を俺は甘んじて受け入れるべきなのかもしれない。
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