第16-5話 金田の謝罪

 金田君が賀川君を諭そうとしたことで賀川君はこの場を立ち去っていった。


 そして賀川君がいなくなって気が抜けた紅はその場で尻餅をついた。


「ふぅーーーーっ。疲れたぁ」

「疲れるよりおでこの痛みの方が気にならないの?」

「意外と痛くないんだよな。アドレナリンのおかげかもな」

「それならよかったけど……本当に大丈夫?」

「ああ、何にも問題はないよ。それよりごめんな。可愛いハンカチ汚しちまって」


 いやどれだけお人好しなのよ、と思わずため息が出そうになる。

 自分はおでこから血を流しておいて、気にするのが私のハンカチって。


「私のこと体張って助けてくれたんだもん。ハンカチなんて洗えばいいんだし、全然気にしてない」

「染谷君っ。蔦原さんっ! 本当にありがと……」


 和泉ちゃんは私たちに向かって深く頭を下げた。


 和泉ちゃんからしてみれば私たちに助けられた形になるので、お礼をするのは違和感のある行動ではない。


 しかし、私には和泉ちゃんからお礼をされる資格なんてない。


「私の方こそごめんっ。私が気を付けていれば和泉ちゃんが賀川君からターゲットにされることなんてなかったのに……」

「和泉ちゃんは悪くない。私も2人がいじめられてる時、見てることしかできなかった最低な人間だから……」

「まあとりあえず全部賀川が悪いってことにしとこうぜ。そうすりゃ丸く治るだろ」

「あ、あのっ!」

「「「--?」」」


 私たちの会話に割って入ってきたのは金田君だ。


 紅の怪我のことばかりに目がいってしまい忘れていたが、なぜ金田君はいつも一緒にいた賀川君に反論したんだろう。


「本当にごめんっ! 今回のことだけじゃなくて、これまでのいじめのこともっ」


 そう言って金田君は地面に額をつけて土下座を始めた。


「い、いいって別に。金田君は賀川君と一緒にいただけで、実際何もしてないでしょ?」

「で、でも‼︎ 僕が賀川君を止めていれば、2人が不登校になることもなかったし、いじめのターゲットが和泉さんに切り替わることだってなかったんだ」


 金田君はいつも賀川君と一緒にいるだけで、いじめに直接加担はしていなかった。


 それどころか、むしろ賀川君にいじめをやめさせたいと思っていたのか。


「そんなに責任を負ってもらわなくて構わないよ。今回は金田が助けてくれただろ? 威勢よく助けに入ったはいいものの、正直金田が賀川を退散させてくれてなかったら今頃俺ボロボロだわ」

「今回はカッとなって手に持ってる缶を投げちゃったけど、賀川君も直接暴力で誰かを傷つけるつもりはないからボロボロにはされてないと思うけど……。なんにせよ、僕が賀川君を止めていたらこうして染谷君が怪我をすることだってなかったのに……」

「金田君、賀川君ついて話を聞かせてくれない?」

「……うん。今更昔の話をしたって許してもらえないだろうけど、全部話すよ」


 昔は今のように誰かをいじめていなかったという賀川君。


 それがなぜ今こうして私や紅をいじめたように人にいじめをするような人になってしまったのか。


 それがわかれば、この問題の解決策の糸口が見えてくるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る