第14-2話 1人でも
蔦原がクラスメイトに囲まれて身動きが取れなさそうだったので、俺はこっそり自分の席へと座った。
席替えをされていたら自分の席の場所は分からないし、かと言ってどこか自分の席かを訊ける人もいないのでどうしようかと思っていたが、どうやら席替えはしていなかったようで前の席と同じ場所に俺の席はあった。
自分の席に座ることができた俺はひとまず胸を撫で下ろす。
「そ、染谷君っ」
復帰したばかりの俺に声をかけてきたのはクラスメイトの
なぜかは分からないが俺が不登校になる前からちょくちょく声をかけてはきていたのだが、こうして復帰してきて即声をかけてきてくれるとは思っていなかった。
蔦原のようにいじめられている俺に手を差し伸べてくれたわけではないが、だからと言って和泉を攻めたりはしない。
いじめられている人に手を差し伸べれば自分がいじめられることになるのは目に見えているのだから。
和泉は単発で見た目はボーイッシュではあるが、オドオドした喋り方でその姿が蒼と被る時があり、和泉の方から話しかけてくれた時は喋りやすくて会話弾ませたりもしていた。
とはいえ友達と呼べるような関係ではないし、和泉の方がそう思ってくれているとも思えないけど。
まあ友達というよりは妹みたいな感覚でもあるし。
「和泉。どうした?」
「あ、あの、今日から復帰なんだなと思って……」
「ああ。よろしくな」
「う、うん。な、何かあったら言ってね。休んでた間のこととか、分かると思うから」
「ありがとう。助かるよ」
蔦原の周りに集まっている大量のクラスメイトには到底及ばないが、たった1人でも俺の存在を気にかけてくれて復帰した俺に喋りかけてくれたクラスメイトがいたという事実だけで、復帰した甲斐があったとすら思ってしまう。
「あ、あのね……?」
「……ん? どうした?」
「染谷君がいじめられてた時に何もできなかった私が言っていいことじゃないかもしれないけど、私、染谷君が復帰するの待ってたの」
俺を待ってた……?
何か俺に用事があったのだろうか。
「え、それはなんで?」
「そ、そのっ--。理由はっ……言えないけど……。で、でもとにかく染谷君が復帰してくれて嬉しいっ」
「あ、ああ……。ありがと」
「それじゃあHR始まるし戻るね」
そう言って和泉さんはそそくさと自分の席へと戻っていった。
ただ俺のことを気にかけてくれていただけではなく、復帰を喜んでくれるなんてこれ以上嬉しいことはない。
結局俺に声をかけてきた理由や俺の復帰を待っていた理由は分からなかったが、和泉とはこれから蔦原の様に仲良くなれればいいな。
とはいえ、喜んでばかりはいられない。
何せまだ教室には俺たちをいじめていた賀川たちがいないのだから。
賀川たちが教室に入ってきてからが本番である。
そんなことを考えていると、ついに賀川といつも賀川にくっついて行動している金田が教室に入ってきた。
「……おい、おまえらなんで復帰してるんだよ」
俺たちの姿を見た瞬間、賀川の顔は一瞬にして歪む。
そして先程までの賑やかさは嘘の様に教室は静まり返った。
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