再登校無双編

第14-1話 再登校初日

 再登校初日、俺は久しぶりに制服を見に纏った状態で鏡の前に立っていた。


緊張をほぐすために『ふうぅぅぅぅー』と大きく息を吐く。


 俺は再びあの地獄に、いじめといういじめを全て受けたであろうあの場所に戻るんだ。


 蔦原との信頼度が100%にってからずっと頭では学校に復帰することを理解しながらも、拒絶感は拭えておらず学校に行きたいとは到底思えないでいた。


 そして今日ついに学校に復帰するわけだが、上手く復帰できるのだろうか。


 俺が復帰したことを賀川が知れば不登校になる前よりも更に酷いいじめをしてくることだろう。


 俺はいじめの嵐に耐えることができるだろうか。


 不安に押しつぶされそうになり青ざめていく自分の顔を鏡で眺めながら自信を失っていると、家のインターホンが鳴る。


 モニターを見ると、そこには蔦原の姿が映っていた。


『おはよう!』

「声がでかい。近所迷惑だ」


 そう言って俺はカバンを持って玄関に向かった。


「わざわざマンションまで来なくてもどこかで落ち合えばよかったのに」

「ここまでこないと迎えにきた感がないでしょ。それに--」


 蔦原は俺の後ろを覗き込む。


「彩楽さん、頑張って」

「蒼ちゃぁぁぁぁん! ありがと。頑張るよ。蒼ちゃんに会えるなら毎日ここまで来ちゃおっかな。今日も本当可愛いねぇ」


 普段はあまり家から出ようともせず、誰とも関わりを持とうとしない蒼がこうして積極的に関わろうとする唯一の相手が蔦原だ。


 こうして俺が学校に復帰できるようになったのも、蒼が誰かと会話をできるようになったのも蔦原のおかげだと考えると染谷家は蔦原に頭が上がらない。


「応援してる」

「ありがとねっ。それじゃあいきますか。我らが愛しの学校へ!」

「いつから愛しくなったんだよ」


 こうして俺たちは自宅を出て学校へと向かった。




 ※※




「ねぇ紅、これってやっぱり……」

「ああ……。間違いなく他の生徒全員の視線を俺たちが集めてるな」


 学校まで残り徒歩1分と言ったところで俺たちは完全に理解した。

 自分たちに他の生徒からの視線が向けられていることを。


 学校に近づくにつれて俺たち以外の生徒を見かけるようになり、その生徒たちがやたらと俺たちのことを気にしているなとは思っていたが、やはり俺たちに視線が集まるのは避けられないようだ。


 視線を集めている理由は蔦原が可愛すぎるのと、そんな蔦原が、なぜ俺みたいな冴えない男といるのか、という疑問である。


「この分だと教室に入ったらもっとやばいことになるだろうね……」

「まあそれも覚悟の上だしな」


 その後も俺たちは全生徒の視線を浴びながら教室へと向かう。


 以前通っていたので初めて来るわけではないはずなのだが、なぜか見たことのない景色のように感じるのは、蔦原が一緒で俺が前を向いて歩いているからだろう。


 以前は下ばかり見て歩いてので、広々とした空間が上に広がっていることは知らなかった。


 教室にたどり着いた俺たちは、出入り口を跨いで教室へと入った。


 その瞬間、騒がしかったクラス内が一瞬にして静まり返る。


「さっちゃんっ!」

「みいちゃん!」


 学校復帰が俺たちに協力してくれることになった臼井さんが蔦原に飛びついた。


 よっぽど蔦原のことが好きなんだろう。


 それを皮切りに、蔦原に駆け寄るクラスメイトたち。


 そうだ。蔦原は元々大人気で、こうやって大勢の人の真ん中にあるべき人間なんだ。


 だからこれは喜ぶべきこと。


 だがしかし心の中にある、こいつらは誰一人として蔦原に手を差し伸べようとはしなかったんだよな、という疑念を払い去ることはできていなかった。

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