第10-1話 水族館デート
土日を挟んで月曜日、今日は水族館に行こうと蔦原からメッセージが来ており、水族館へとやってきていた。
蔦原が俺の前で失言をして逃げるように帰って行った時はもうメッセージすら来ないのではないかと思ったが、失言は無かったかのようにメッセージが飛んできたので俺も記憶から抹消したことにしている。
いやもちろん抹消できていないんだけども。
蔦原の失言が頭から離れないせいで、ここ数日中々眠りにつくことができず眠気に襲われている。
そんな俺の前で水槽に張り付いてイルカを見ながら仲良さげに会話をしているのは蔦原と蒼だ。
蔦原からの追加で送られてきたメッセージには『当日は蒼ちゃん連れてくること!』と書かれていたので、蒼を誘うと二つ返事で『行く』と言った。
蒼は自分の服装、ロリータファッションを蔦原に肯定されたことで蔦原に懐きまくっているが、あれ以来蔦原と蒼が会うのは今日で2回目。
蔦原とはしばらく会えていなかったのだから喜びもひとしおだろ
もっと会わせてやりたいという思いはあったし、蒼も蔦原に会いたいと言っていたので蔦原にお願いしてまた家に来てもらうおうかと考えもした。
しかし、俺たちの目的はあくまで信頼度を上げることなので、蔦原にお願いするのは自重していた。
だが、今回は蔦原からの誘いなので断る理由が無い。
まあとにかく、蒼が楽しそうでなによりだ。
「お兄ちゃん、見て。イルカが目の前でうんちした」
「いや、水族館にきたらもっと注目する場所あるでしょなんであえてイルカのクソに注目してんの?」
「面白いからいいじゃん」
我が妹ながらとんでもないところに目を付けるもんだよ本当に……。
てかやっぱ水族館ってデートの定番スポットって
だけあっていい雰囲気だな。
水中に差し込む陽の光が暗い水族館の中を照らし、床面には水面の様な光が差し込んでいる。
やはり女子はみんなこの薄暗く幻想的な雰囲気が好きなのだろうか。
そんなことを考えながら、10分以上イルカの水槽に張り付いている蔦原と蒼を見て気付く。
俺の視線がイルカでも蒼でもなく、蔦原にしか向けられていないことに。
いや、そりゃ学校1の美少女と名高い蔦原には自然と視線がいってしまうだろう。
蔦原、ほんっとうに可愛いな……。
大きい目に艶のある黒髪、小柄な身長も男子からすれば受けはいいだろう。
それでいて、俺にも俺の妹に対しても優しくできる性格の良さを持ち合わせている。
こんな子と俺はずっと一緒に遊んでるんだもんな……。
あり得ないよな実際。
今までろくに友達もできなかった俺が蔦原と一緒に水族館にやってくるなんて。
いつか俺と蔦原が恋人になった時、またここに来れたらいいなぁ、なんて……。
--はっ⁉︎
今俺、蔦原と恋人になってここに戻ってきたいって考えたよな⁉︎
いや、焦るな焦るんじゃない俺。
蔦原のような美少女に俺みたいな男が釣り合うはずがないし、そもそも俺自身それを理解しているからこそ、こうして蔦原と一緒にいても一目惚れしたり好きになることはなかったんだ。
それなのに、今俺は無自覚に、蔦原と恋人になりたいと思ってしまった。
そんなこと考えるだけで烏滸がましい。
まあなんにせよ、蔦原に対する俺の気持ちが少しずつ変化してきているのは、紛うことなき事実なのだろう。
「ちょっと? なにニヤニヤしてるの?」
「あ、っいや、なんでもない次行こうぜ次。
やはりニヤニヤしてしまっていたか……。
俺は自分が何を考えていたのか勘繰られないよう、顔を背けてそそくさとイルカの水槽前を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます