第8-3話 大切な友達
……え、ちょっと待てよ?
今俺とんでもないこと口走ったよな⁉︎
え、ちょ、ちょっと待て、どうする? どうする⁉︎
いや、焦ったって何も始まらない。まずは冷静になるところから始めよう。
……。
『好き』ってどういうことだよ俺ぇぇぇぇぇぇええ⁉︎
こんなの冷静になんてなれるわけあるか!
これまでの人生であまり人との関わりを持ってこなかった俺は、恋愛なんて経験したことがないし、誰かを好きになったこともない。
それなのに、俺は今無意識に『好き』という言葉を口走ってしまったのだ。
それも目の前に蔦原がいる状態で。
「え、あ、あの、今のは……‼︎」
必死に釈明しようとするが、言い訳が見当たらず言葉が出てこない。
どうやって言い訳するのが正解なんだ⁉︎
「……え、なんて言ったの? 風の音であんまり聞こえなかったんだけど」
よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎
あっぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ‼︎
どうやら蔦原には風の音にかき消されて俺の声が届いていなかったようだ。
俺が口走った声量はかなり小さいめだった記憶はあるので、そのおかげで蔦原の耳に届くことはなかったのだろう。
今のが蔦原に聞こえていたとしたら、せっかく積み上げてきた39%の信頼度がゼロになってしまう可能性すらあった。
ここまで信頼度を上げてこられたのは、お互いがお互いを学校に復帰させてあげたいという気持ちがあったからだ。
そこに、恋愛感情などという邪な感情が入ってしまえば、その関係性は崩れ去ってしまうだろう。
とにかく、聞かれてなくてよかった。
「べ、別に。何でもない」
「そう? それにしてももう信頼度39%かぁ。あと61%だけど、何ならもう学校に復帰しちゃってもいいってくらい紅とは仲良くなれてる気がするなぁ。ね、紅もそう思わない?」
そう思わないわけがない。
何せ『好き』という言葉が思わず飛び出してしまう程俺は蔦原のことを信頼しているのだから。
「そりゃそう思うよ。俺も今までこんなに仲良くしてきた人なんて1人もいないし、もう蔦原は大切な友達だから」
「た、たっ……。そ、そっか……。大切か……」
蔦原は俺の言葉を聞いて何やら焦りを見せているが、なぜ焦っているのだろう。
「でもま、不登校の俺たちが2人で学校に復帰するって相当なことだし、形だけでも100%は達成しておいた方がいいんじゃないか」
「そ、そうだね! 私も紅のことは大切な友達だと思ってるけど、最高の友達目指して頑張ろっ!」
「……そうだな」
こうして観覧車を降りた俺たちはそのまま出口へと向かい、同じ学校の生徒に会わないように注意しながら帰宅した。
蔦原にとっても、俺のことは大切な友達になっているようだ。
しかし、蔦原に大切な友達だと言われた時、なぜか心の底から喜べなかったのは、先ほど無意識に口走ってしまった言葉と関係しているのかもしれない。
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