第8-2話 本心
遊園地を遊び尽くした俺たちは、休憩も含めて観覧車に乗ってから帰宅することにした。
観覧車に乗るとなれば本格的にデートのような雰囲気が出てきてしまい、蔦原を異性として意識せずにはいられない。
「どんどん上がってくね。はぁー今日は楽しかったー!」
俺の前で今日の余韻に浸っている蔦原に、今日1日考えていたことについて訊いてみることにした。
わざわざ訊かなくてもいいことなのかもしれないが、これだけ悩んでいるのにこのまま有耶無耶にはしたくない。
「あのさ、1つだけ質問させてほしいんだけど」
「質問? なに?」
「今日遊園地に来たのって信頼度を上げることと何か関係があるのか? 蔦原からしたらさ、俺みたいな地味で根暗な奴と今日みたいにただ遊ぶよりも、手っ取り早く信頼を上げて学校に行った方がいいような気がするんだけど」」
俺の質問を聞いた蔦原は、「たはははー」と手を頭に当てて何やら気恥ずかしそうにしている。
今日遊園地にきたのにはやはり何かしら理由があるということなのだろうか。
「ごめんごめん。そうだよね。そりゃ気にもなるよね。正直に言うと、今日遊園地に来た目的はただ紅と遊ぶのが面白いからってだけで、信頼度上げるとかそっちのけでただ楽しみたかったからなんだよ」
「……は?」
信頼度そっちのけ? 俺と遊ぶのが面白い?
信じられないような言葉を聞いた俺は思わず目を丸くする。
もちろん俺は美少女で人気者である蔦原と遊ぶことを毎度の如く楽しませてもらっている。
しかし、蔦原が俺と遊ぶのを楽しいと思ってくれているとは思っていなかった。
「いや、信頼度そっちのけにしちゃったのはほんと申し訳ないとは思ってるんだよ? でも意外とこうやってただ楽しく遊んでるだけで信頼度って上がってくんじゃないかなーと思って」
確かに意図的に信頼度を上げようとするよりは、自然と信頼度が上がった方がよりお互いを信頼しているということにはなるだろう。
「いや、俺と遊ぶことがただ単純に楽しいなんてあり得るわけないだろ? 今まで友達なんていなかったし、こんなに冴えない奴と一緒にいて楽しいわけなんて……」
「それは「今までの人は」でしょ? 私は楽しいよ? 紅と一緒に遊ぶの」
……改めて考えてみれば俺と一緒にいるのが楽しくないと判断されたことは一度もない。
というか、そもそも誰とも関わりが無いから面白い面白くないの判断はつけられてこなかった。
「で、でも俺、地味だし根暗だし……」
「えっ。いやいやいやいや、紅って地味でも根暗でもないよ?」
「……へ?」
「だってこうやって私と普通に会話できてるし、今はちょっと身だしなみがだらしないかもしれないけど、顔も整ってるし見た目も地味じゃないと思う」
そうか……。俺って地味でも根暗でも無いのか……。
これまではただ誰かに話しかける勇気がなくて、
関わりを持たなかったので自分は地味で根暗だと思っていたのだが……。
蔦原にかけられた言葉が嬉しすぎて思わず目頭が熱くなる。
「そ、そうか……。俺、地味でも根暗でもなかったんだな」
「うんっ。だからこれからも今日みたいにさ、遊んでたらいつの間にか信頼度上がってました、くらいの緩いペースで進んでいこうね」
「ありがとな。蔦原のおかげで自分の知らなかった部分を知ることができたよ。信頼度10%アップだ」
「え! 過去最高記録じゃないそれ⁉︎」
蔦原は俺と一緒にいるのを楽しいと言ってくれただけではなく、俺が本当は地味でも根暗でもないことを見つけてくれた。
それはこれまで俺自身が否定してきた人生をそのものを肯定するような言葉なのだ。
だから信頼度10%アップは妥当だし、むしろ少ないくらいなのである。
これで信頼度39%か。
まだまだ先は長いな……。
「好き……」
「……え?」
蔦原に対する想いが溢れ出てしまった俺の方からは、とんでもない言葉が飛び出していた。
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