第7-1話 会えない期間
今日は日曜日。
蔦原と会う予定がない、というか会うことがでない俺は家で特にやることもなくグダグダしていた。
土日は同級生に目撃される危険があるため、元々蔦原とは会わない約束をしている。
蔦原と遊ぶようになってからこれまでの土日は、蔦原に会えない期間は2日だけだったので気になることはなかったが、今回は違う。
菜々美さんから蔦原と会ってもいいのは平日のいずれか2日間のみというルールを定められたため、最後に蔦原に会ったのはもう5日も前のことになるのだ。
以前は人と関わるのが苦手で、誰とも会うことがない土日に家でグダグダとしているのが好きだった。
それなのに、俺は今この有意義であるはずの時間を暇だと思ってしまっている。
最初の2日くらいはまだよかったのだが、3日目以降はもうやることがなくなり、頭の中は蔦原でいっぱいになってしまっていた。
それは、蔦原と会う時間が楽しいということを表している。
まだ数週間程度の付き合いではあるが、これまで人と深い関わりのなかった俺にとって、その程度の付き合いがあまりにも大切なものになっていたようだ。
そんなことを考えながらバラエティ番組を見てソファでグダグダしていると、リビングの扉が開き蒼がやってきた。
「お兄ちゃん、次彩楽さんいつくるの」
「えーっと……。今のところ次家に来る予定はないけど、蒼が会いたがってたってまた言っとくよ」
「うん。できるだけ早めがいい」
今までこれほど蒼が他人に懐いたことなんてない。
俺だけでなく蒼にとっても蔦原は非常に大切な存在となっているようだ。
できることなら、早く蔦原に会いたい。
「明日まで待てそうにないなぁ……」
そう口走った矢先、俺のスマホが鳴り響く。
電話の主は蔦原だった。
『やっほー。元気?』
その蔦原の声を聞いただけで、無性に安心してしまったのは一体なぜだろう。
先程まで空っぽになっていた俺の心は蔦原で満たされていた。
「体調は悪くないな」
『どうせ暇してるだろうなーと思って。かわいそうだから電話かけてあげた』
図星ではあるが、はいそーですと返事をするわけにもいかない。
「……そんなこと言って、蔦原が暇してたんじゃないのか?」
『そ、そんなことないしっ。忙しかったなら切ってもいいけど?』
「……ちょうど暇してた」
『でしょ』
反撃に出たつもりがあえなく撃退されてしまった。
『忙しかったなら切ってもいいけど?』と言われた瞬間、『今手が離せないからな。それじゃ』といって電話を切ることもできたのに、俺はそうしなかった。
どうやら俺は蔦原のことがよっぽど必要な体になってしまったらしい。
そして俺たちは電話で他愛のない話を繰り広げていた。
※※
お母さんに平日の2日間以外は出歩くなと言われた私は家にこもっていた。
今日で最後に紅と会った日から5日が経過し、私の我慢は限界に達していた。
当初の目的は、紅を学校に通わせること。
いじめられて不登校になってしまった紅をそのまま見過ごすことはできなかった。
それなのに、紅と関わり始めてから1週間が経過した私は、紅と一緒にいる時間がシンプルに楽しいと思うようになってしまった。
紅に会えるのは明日。
でもやっぱりもう我慢できない。
家から出ずに電話してるだけならお母さんも文句言わないよねっ。
そうして私はスマホを手に取り、RINEを開いて通話ボタンを押したのだった。
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