第6-3話 菜々美さんと2人きり
2人きりでリビングに取り残された俺は完全に蛇に睨まれたカエル状態で体を縮こめていた。
蔦原の母親に会うだけでとんでもない試練だというのに、まさか蔦原がいなくなって2人きりになるとは思っていなかった。
とはいえ、最初顔を合わせた時と比べると印象は変わってきている。
「すまないね。私がこんなんだから怖がらせてしまって」
「い、いえ。こちらこそ、娘さんを連れ回して申し訳なかったです」
「謝罪なんていらないよ。染谷君には感謝してるんだ。彩楽と一緒にいてくれてありがとう」
そう言いながら菜々美さんは頭を下げる。
不登校の娘を連れ回していたのにも関わらず、まさかお礼をされるとは思っていなかった俺は目を見開く。
「あ、頭を上げてください! お礼をされるようなことは何も……」
「不登校の娘のことを心配しない母親がいると思うか?」
俺の言葉を遮るようにして急に質問してくる菜々美さんに即座に答えた。
「え? そ、そりゃいないと思いますけど」
「私はね、不登校になった彩楽と一緒にいてくれる君に本当に感謝してるんだ。娘が不登校になって落ち込んでるというのに何もできない自分が腹立たしくてね……」
俺のような蔦原と関わりがあまりなかった人間でさえ蔦原が不登校になっている状況には腹が立ったし、何とかしてやりたいと思っていた。
それが母親ともなればその気持ちは俺の何倍も大きいだろう。
「な、何もできなくなんてないですよ。菜々美さんが寄り添ってあげてるからこそ、蔦原は今もげんきなんです」
「……ありがとね。君には本当に救われたよ。君と出会ってからの彩楽は楽しそうなんだ。凄く、凄くね」
「そ、そうなんですか……」
こんな俺でもこうして誰かの役に立っていたのだと、思わず心が暖かくなる。
今まで家族以外にこうして面と向かって感謝を伝えられたことなんてなかったからな。
「だから本当にありがとう。親がこんなだからね、娘には真面目に礼儀正しく生きてほしいと思っていたら、まさかこんなことになるなんて……」
菜々美さんが蔦原のことを想い、自分をせめる姿を見て、俺の胸は熱くなってしまう。
「娘さん、絶対登校させますから」
「……へ?」
「僕が娘さんを、いや、娘さんと一緒に学校に通いますから!」
「……ふふっ。そうか。それは心強いな」
「あ、え、いや、あ、あの、でしゃばってすいません……」
「頼んだよ。ウチの娘を」
「--はい!」
まずい、熱くなりすぎた、と反省はしたものの、自分が言った言葉を後悔することはなかった。
そして菜々美さんとの話が終わったタイミング蔦原がリビングへと戻ってきた。
「なんの話してたのー?」
「彩楽さんを僕にくださいって言ってきてな」
「そんなこと言ってないですよ⁉︎」
「えー、私年上の男性が好きだからな〜」
「コラそこ、間に受けるな!」
こうして俺は蔦原を絶対に学校に通わせるという決意を新たに、しばらく蔦原と菜々美さんの3人で雑談してから帰路についた。
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