第6-2話 ななみさん
「お、お邪魔しま〜す……」
蔦原の家に到着した俺は扉の向こう側にゾンビでもいるのではないかというくらい慎重に玄関の扉を開けて静かに挨拶をした。
冗談でもなんでもなくこれまでの人生で1番緊張していると言っても過言ではなく、身体の動きはカチカチになっている。
友達のお母さんに会うというイベントさえ初めてなのに、それが学校1の超絶美少女である蔦原の母親だなんて緊張するしかないだろ。
蔦原と真っ当な関係なのだとしたらもう少し堂々としていられたかもしれない。
しかし、不登校になった娘を毎日のように連れ歩いたり、学校にも行かずぐうたらな生活を送っている俺が歓迎されるわけがない。
誰だって自分の娘の男友達がだらしない奴だったら直ぐにでも関係を断たせようとしてくるに決まっている。
返事は無いまま靴を脱いで自宅へと入ると、部屋の扉が開き蔦原の母親が出てきた。
「いらっしゃい。ゆっくりしていきな」
予想外の反応に俺は目を丸くする。
蔦原の母親はどちらかといえばキャピキャピとしたタイプで可愛らしい若奥さんを想像していたが、赤髪に長髪でハードボイルドな雰囲気の母親だった。
これはきっと昔ヤンチャをしていたに違いない!
は、早く逃げなければやられる⁉︎
「はっ、はい⁉︎」
「そこらのシャバい野郎とは違ってこんな見た
シャ、シャバい⁉︎ 見た
だ、ダメだこの人、完全に裏の世界の人だ!!
「ご、ごめんね。お母さんこんなだから勘違いされやすいんだけど、すごく優しくて、紅が来てくれたのが嬉しいんだよ」
「そ、そう……なんですか?」
「ごめん。染谷君……だよな。とりあえずジュースでも飲んでゆっくりしてくれ」
「あ、ありがとうございます」
そうして俺はリビングへと招かれた。
机に座り、蔦原の母親がジュースを入れるのを待つ。
「大丈夫? 俺歓迎されてなくない?」
「さっきも言ったでしょ。あれで喜んでるんだよウチのお母さん。ほら、なんか小刻みに揺れてるでしょ? あれ、機嫌がいい時に何かの曲に合わせて揺れてるの」
「た、確かにゆれてるな」
娘が不登校の男とつるんでるなんて知ったら普通怒りそうなものなのに、なぜ喜んでくれているのだろうか。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。あ、あの……」
「
「な、菜々美さん。今日はお招きいただきありがとうございます。そ、その、娘さんとは最近仲良くさせてもらってまして……」
「彩楽から色々聞いてるよ」
「色々聞いてる……?」
蔦原は俺のことを母親に話していたのか。
どこまでを話しているのかは知らないが。
「ちょ、ちょっとお母さんっ」
「君が不登校だってことも学校をサボってうちの娘と遊んでいることも聞いてる」
い、いやこれやっぱり怒ってないか⁉︎
どう考えても印象最悪な気しかしないんだが⁉︎
血の気が引いて俺は青ざめた表情になっている。
「何より、君が優しくてかっこいい人間だって話は何回も聞かされてるよ」
「……へ?」
「お、お母さん⁉︎」
優しいというのは百歩譲って理解できる。
今お互いの信頼度を上げている最中だしな。
しかし、かっこいいとはなんだろうか。
「男に絡まれてる娘を助けてくれたんだってね。感謝してるよ」
「……あっ、は、はい。偶然見かけただけですけど」
「偶然見かけてそれを行動に起こせる君はすごいよ。今日はそのお礼が言いたくて呼んだんだ」
「そ、そうだったんですか……」
「毎日彩楽と遊んでいるのは看過できないけどな。遊ぶならせめて平日のどこか二日だけにしておきなさい。毎日遊んでたらバレる可能性が高まるからね」
あ、あくまで気付かれるかもしれないからってところなんだな。
不登校なのに外に遊びに行くこと事態には怒っていなかったのか。
「そ、それは理解してます。今まで気付かずすいませんでした」
「わ、私、トイレ行ってくる〜!」
蔦原は俺の話を母親にしていたことをバラされ恥ずかしさで顔を押さえながら、トイレへと入っていった。
え、ちょっと待ってくれ。俺菜々美さんと二人きりなんだが⁉︎
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