第5-2話 ぬいぐるみ

 電車を乗り継ぎ俺たちはNIKEAに到着した。


 NIKEAには久々にやってきたが、店舗というよりは倉庫のような外観でなぜかワクワクしてしまう。


 自分だけテンションが上がっているのは恥ずかしいので、テンションを上げすぎないように気を付けなければ。


「うわー! やっぱり大きいね!」

「これだけでかいと歩き回るのも大変だな」

「テーマパーク感あってワクワクするんだけど! スイーツはもちろんだけどぬいぐるみも見て家具も流石に見過ごせないし……ねぇ早く入ろうよ!」

「……そうだな」


 変な心配をしていた自分がバカらしく思えてくる。


 ワクワクしてテンションが上がっていたのはどうやら俺だけではなかったようだ。


 蔦原も俺と同じ気持ちだったことがやけに嬉しくて、思わずにやけそうになり顔を逸らした。


 このままではダメだ。


 気を引き締めないと蔦原ににやけていることがばれてしまう。


 軽く頬を叩いて気を引き締めなおしてからNIKEAへと入店し、入口の目の前にあったエスカレーターに乗って2階へと上がった。


 っていうか要するに蔦原は俺にありのままの自分を見せてくれてるってことだよな。


 それはなんかその……。


 そして俺は更ににやけ面で顔を赤面させてしまった。


 2階に上がって早速見つけたのは山のように積まれているぬいぐるみ達だ。


 サメやカメ、タコ等種類の豊富なぬいぐるみ達が置かれており、家具以上に存在感を放っている。


 そんなぬいぐるみたちの中でも一際目を引くのは犬のぬいぐるみだ。


「あ、早速ぬいぐるみ置いてある! NIKEAの犬、可愛くてうちにもこのシベリアンの子が1匹いるんだよね」


 安価ながらも絶妙な抱き心地で、愛くるしい表情がなんとも言えない犬のぬいぐるみは見るもの全てを魅了すると言っても過言ではない。


「そうなのか。うちも蒼がこの茶色いゴールデンレトリバー? タイプは持ってるな」

「えっ! そうなんだ! このシベリアンのぬいぐるみは持ってないの?」

「前来た時はそっちのぬいぐるみ売り切れてたんだよ」

「そうなんだ。よし、じゃあお姉ちゃんが買ってしんぜよう!」

「え、なんで蔦原が蒼にぬいぐるみ買うんだよ誕生日でもないのに」

「いやいや、だってそりゃ蒼ちゃんが喜んでくれてるところ見たいし!」


 嘘のような話ではあるが、蔦原は本気で蒼が喜んでいる姿を見たいがために、ぬいぐるみを買おうとしてくれているのだろう。


 冗談で『お姉ちゃん』なんて言ってはいるが、本当の姉妹みたいな関係性だな。


「……はぁ。あからさまに信頼度上げに来てるように見えてそれが本心なのが凄いよ蔦原は」


 蔦原の神がかった性格に感心しすぎて思わずため息がでる。


「……うん? なんかよく分かんないけどありがと。えーどの子にしようか迷っちゃうなぁ……。あっちの子も可愛いし、いや、この子の方が可愛い? あ、でもそっちの子の方が……」

「ふっ。ははははっ! お前それ、そんなに真剣に選んで違いなんてあるのか?」

「ちょ、あるよ! なんでそんなに笑うの⁉︎」


 蔦原があまりにも真剣にぬいぐるみを選ぶので思わず笑いがあふれ出てしまった。


 種類が違うならまだしも、同じ種類のぬいぐるみなんて多色表情に差はあれど、それは誤差みたいなものである。


「ごめんごめん。あんまりにも真剣に選んでるもんだから……。信頼度5%アップだ」

「え、ぬいぐるみ選んでる私そんなに可愛かった?」

「そんなこと言ってねぇわ」


 こうして冗談を言えるような関係の人間なんて今まで1人もいなかった。


 いや、冗談どころか普通に会話できる友達もいないんだけど。


 とにかく今、俺は蔦原と一緒にいるのが心地いい。


 できればこのままずっと……。


 信頼度が29%に上がり調子に乗った俺はそんなことを考えながらぬいぐるみを選び終えて家具コーナーへと足を踏み入れた。


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