第5-1話 NIKEA

 土日を挟んで月曜日、今日も僕たちはシャクドに集合していた。


 土日に俺と蔦原が顔を合わせなかったのは、蔦原との話し合いで土日に顔を合わせるのはやめておこうと決めたからだ。


 土日は平日と違い俺たちと同じ高校に通っている生徒も外出をしている可能性がある。

 そうなると、俺たちが2人でいるところを同級生に目撃される懸念があったため、土日は会わないことに決めた。


 俺たちのことを目撃した生徒に『平日の昼間から蔦原さんと染谷君が学校にも来ないで遊び歩いてました』なんて告げ口されたら面倒な話になってしまう。


 それにしてもやっぱり美少女だなこいつ。


 先日の蒼に対する蔦原の反応を見て好感度が上がったせいかもしれないが普段より3倍マシくらいで可愛く見えてしまう。


 土日に顔を合わせなかったことも、蔦原が普段より可愛く見える原因の1つだろう。


「それで今日は何すんの?」

「よし、NIKEA行こ‼︎」

「NIKEA? どうした唐突に」


 シャクドに集合し蔦原から伝えられた今日の目的は、世界最大級の家具メーカー、NIKEAの店舗に行くというものだった。


「NIKEAって何するところか知ってる?」


 何をするところかと訊かれて真っ先に思い浮かんだのは『家具を買うところ』という回答。


 しかし、分かりきったこの質問をあえて俺にしてきているということは何か他にやることがあるのか?


 以前両親とNIKEAに行った時に、蒼がやたらとぬいぐるみを欲しがっていたような記憶はあるが『ぬいぐるみを買うところ』と答えるのは流石に間違いだろう。


 悩んだ俺はとりあえず1番に思い付いた回答をしてみることにした。


「いや、そりゃ家具買うところだろ」

「ぶっぶーっ。何にも分かってないねぇ紅は」


 無性に腹が立つ言い方してきてるなこいつ。


 信頼度マイナスにしてやろうか。


「いや、他にもやることはあるのかもしれんが『家具を買うところ』って回答も不正解ではないだろ」

「私からしたら不正解みたいなもんだよ。正解は、スイーツを食べるところです‼︎」

「……スイーツ?」 


 NIKEAは多種多様な家具が置いてあり、そのラインナップの多さから人気を博している家具メーカーだ。


 NIKEAとスイーツが結びつくとはとてもじゃないが考えられない。


「そっ。スイーツ」

「NIKEAにスイーツなんて食べる場所あるのか?」

「あるある‼︎ ほら、見てよこれ」


 そう言って蔦原は俺の方にスマホの画面を見せてくる。


「……本当だ。しかも食べ放題……800円⁉︎ 安すぎないか⁉︎」


 驚きの内容に思わず目を見開く。


「そうなんだよね〜。期間限定ではあるんだけど、学生の私たちでもこの値段なら手が出しやすいでしょ? て言っても私たち学校には行ってないんだけどね」

「やめろその不登校の者同士じゃないと成り立たないブラックジョーク」


 蔦原のブラックジョークはブラックすぎて流石に笑えなかったが、スイーツの食べ放題が800円というのは魅力的すぎる。


 ここ最近の物価高も相まってか、スイーツ食べ放題なんてしようものなら余裕で2000円は超えてくるからな。


「不登校の者同士なんだからいいでしょどっちも傷付かないし」

「どっちも傷付く可能性を考慮しような」

「ってか紅って甘い物好き? 何も考えずに発言しちゃったけど、苦手なら何かしら別の案考えるけど」

「大好きだ」

「信頼度2%アップ‼︎」

「スイーツだけに採点甘々だな」

「お、上手いこと言うねっ。甘々の好きに悪い人はいないからさ」


 俺が甘いもの好きだっただけで信頼度が2%加算されるという採点は甘すぎると思うが、俺も丁度信頼度を加算をしようとしていたところだ。


 自分の話を押し付けるだけではなく、俺が甘い物好きかどうかという部分にしっかり気を遣ってくれる。

 そんな当たり前じゃない優しさを、蔦原は当たり前のようにやってのけてしまう。


 信頼度は24%。


 少しずつだが着実に増えていっているな。


「中には悪い人もいるだろ」

「いないってことにしといた方が夢があるでしょ。それじゃいこっか」 


 そして俺たちはシャクドを出てNIKEAに向かうため電車に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る