第4-3話 ロリ妹
「いや、何この可愛さ控えめに言って天使なんですけどぉ」
そう言いながら、蔦原は俺の妹に頬擦りしている。
しかし、頬擦りされている蒼はというと……。
「分かる、分かるぞ。蒼が可愛すぎるのはよーく分かる。でもそれ以上はやめてやってくれ。今にも泣き出しそうな顔で俺に助けを求めてきてるから」
今にも泣き出しそうというか、もはや泣いてるなこれは。
怯えきってしまっている蒼を見かねた俺は、興奮する蔦原をなだめた。
実際うちの妹は頬擦りしたくなる程可愛いと思う。
蒼色の髪を後ろで2つに結んでおり、控えめで優しい性格。
身体は小柄で顔も整っており、『とある理由』さえなければ、蒼は蔦原と同じく学校1の美少女になっていたかもしれない。
「いやだって可愛すぎてさ。何この綺麗な髪、何このほっそい腕、何この真っ白なお肌‼︎」
「ウチの妹が可愛いのは事実だな」
「お兄ちゃん……」
蒼がこの部屋に入ってきて2回目の『お兄ちゃん』だったが、明らかに1回目の助けを求めるものとは違うニュアンスの言い方だった。
「今紅のこと絶対哀れんでたよ蒼ちゃん」
「どうせ俺は妹大好きのシスコン兄貴だよ」
控えめな性格、とは言ったが、正確にはかなり控えめな性格である。
そんな性格も俺と同様にいじめの標的となってしまった理由の1つだ。
「いや、でもほんっと可愛いね蒼ちゃん。私が見てきた女の子の中でもトップクラスだよ。小柄だし今着てるこの青を基調とした控えめなロリータファッションも超似合ってるし」
蒼はロリータファッションが大好きで家にいる時もロリータファッションに身を包んでいる。
もちろん家の中だけでなく、友達と遊びに行く時もロリータファッションに身を包んでいる。
「……似合ってる?」
自分の大好きなロリータファッションを蔦原に『似合ってる』という言葉で褒められ蒼は目を見開いた。
蔦原程の美少女が思わず頬擦りしたくなるほどの美少女である蒼が、学校1の美少女になることはなくいじめられて不登校になってしまった『とある理由』、それはまさに蒼が身にまとっているロリータファッションだ。
人とは自分と異なる存在を忌み嫌ってしまう生き物。
蒼のように外見が明らかに普通の人と異なっていれば目に付き易くなるのは避けられない。
蒼は自分の大好きなロリータファッションが原因でいじめられていたのだ。
だからこそ、蒼は蔦原の『似合ってる』という言葉に反応したのだ。
「うん。めちゃくちゃ似合ってるよ。可愛すぎて直視できないくらい」
「……」
「ん? 蒼ちゃんどうかした?」
蒼の反応を見た俺は目頭を熱くする。
「……ひぐっ」
「え、ど、どうしたの蒼ちゃん? ま、まさか泣いてる? 私何か悪いこと言っちゃったかな⁉︎」
蒼は一筋の涙を流した。
そしてそんな蒼の涙を見た俺の頬にも、一筋の涙が伝う。
蒼には自分の好きなものを共有できる相手がいなかったし、それどころか好きな物のせいで悪口を言われてしまっていた。
蒼から聞いた話によれば、同級生からロリータファッションのことを『気持ち悪い』とか、『似合ってない』と言われ続けていたらしい。
もちろん俺は蒼に『似合ってる』とか『可愛い』と言い続けてきたのだが、家族の俺がそんなことを言っても意味はない。
一度でも同級生からそのように言われてしまえば、その心の傷は一生残るし学校に行きたくなくなるのも当然である。
そんな蒼は、急にやってきた美少女、蔦原彩楽にロリータファッションを認められたことが嬉しくて涙を流したのだ。
そんな蒼の苦労を知っているからこそ、俺も蒼につられて涙を流してしまった。
「その逆だよ。嬉しくて泣いてるんだ」
「う、嬉しくて? え、てか紅まで泣いてない⁉︎」
「うん泣いてる」
「ちょ、そこは『な、泣いてねぇよ』とか言って気恥ずかしそうに否定するところじゃないの⁉︎ 私悪者みたいじゃん⁉︎」
「いや、俺たち兄妹からしたら蔦原はヒーローだよ」
「ひーろー?」
「ああ。だから信頼度10%アップだ」
「え、一気に10%も増えたの⁉︎」
「本当は0をもう1個多くしたいところだけど、それだとあまりにも味気ないだろ? だから10%だ」
「100%は流石に言い過ぎじゃない?」
「俺たちからしたら1000%でも足りないくらいだよ」
「よくわからないけど……まあよかったよ。喜んでくれてるなら」
蒼が涙を流した事情を知らない蔦原はわけがわからない状態だろう。
あたふたと蒼の涙を拭く蔦原を見て、蔦原との出会いが俺の人生だけでなく蒼の人生も大きく左右することになるような予感を感じた。
蔦原との信頼度は22%までアップし、残りの78%も直ぐ上がってしまうかもしれないと考えながら俺は部屋を出てお菓子を準備しに行った。
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