第4-2話 この子誰⁉︎
シャクドから徒歩10分程の場所に俺の家はある。
仕事で出張の多い父親が、駅近のマンションなら出張先からでもすぐに帰れるだろうと購入したのがこのマンションだ。
「ついたぞ」
「へぇ。綺麗なマンションだね」
このマンションに住み始めたのは俺が中学生になった頃で、建てられてからまだ数年しか経過していない新しいマンションである。
俺と妹がいじめられるようになった原因の1つとして、引越しによって友達がいなくなってしまったことが挙げられるが、それは両親には内緒だ。
「新しいからな。ってか本当に家の中に入るのか? 入ったってやることなんて何もないけど」
「別にやることなんてなくていいの。友達ならただ一緒に過ごして会話してるだけで楽しくなれるもんだから」
「……そんなもんか」
友達を家に呼んだ経験が無い俺に蔦原を家に入れたらどうなるかなんて想像できるはずもなく、半信半疑で蔦原の話を聞きながらマンションの中へと入った。
そして自宅の前まで行き、扉を開いて蔦原を招き入れる。
「へぇ〜。うちもマンションだけどここまで新しくて綺麗じゃないから羨ましいな」
俺の家に入った蔦原はあちこあちに視線を移し、家の中をくまなく見渡している。
人に見せられない程散らかっていたり汚れていたりするわけではないが、ジロジロ見られるとなぜか不安になるな。
「物は結構散乱してるけどな。そういう意味では蔦原の家の方が綺麗なんじゃないか?」
「まあそれはそうかも。私、綺麗好きだし」
蔦原は自信満々に手を胸に当て胸を張っている。
……自信満々な蔦原、可愛い。
「また来てよ。ウチにも」
「--え?」
突然の誘いに俺の思考は停止してしまう。
え、今俺蔦原の家のに誘われたのか?
そりゃ先程俺か蔦原どちらの家に行くかを決めたわけなので、俺が蔦原の家に行っていた可能性は十分にある。
しかし、今回俺の家に蔦原が来ることで、『友達の家に行く』っていう目的は果たされたんじゃないのか?
それならば俺が蔦原の家に行く必要はないはずだ。
「今日は私がお邪魔してるんだから、次は紅が私の家に来る番でしょ?」
ま、まあ確かに順番的な話をすればそうなるが、俺みたいなのが蔦原の家に行くなんて……。
「いや、でも俺が蔦原の家に行く理由が--」
「仲のいい友達は理由なんてなくても家に遊びに行くもんなの」
蔦原は俺との距離を詰めてそう言ってきた。
「あ、ああ……。そうか。じゃあ機会があれば……」
「それ絶対来ない人が言うやつじゃん‼︎」
「い、行くって‼︎」
「……ふふっ。絶対だからね」
マジか俺、蔦原の家に行く約束取り付けちまったよ……。
驚きのあまりもはや声さえ出ない。
そんな俺を他所に、蔦原は再び部屋の中を見渡し始めた。
学校1の美少女である蔦原が俺の家にいて、しかもその美少女の家にいく約束を取り付けたなんて……。
とてもではないが信じられないな。
どこからどう見ても美少女で、その外見には非の付けようがない。
性格も申し分なく、注文を付けようとしても1週間ずっと悩んでようやく注文が付けられるかどうかと言ったところだろう。
だからこそいじめられてしまったというが、それが原因でいじめられたとはやはり信じられないな。
他に何か原因があるのではないかと勘繰ってしまうが、それを蔦原なら訊くわけにもいかないんだけど。
「どしたの? こっちジロジロ見ちゃって」
「な、なんでもない。ほら、俺の部屋こっちだから」
そうして俺はリビングから急いで自分の部屋へと向かい、扉を開けた。
「ここが紅の部屋かぁ〜。自宅警備してる割には部屋が綺麗だね」
「潔癖とまでは行かないけど俺も綺麗好きだからな」
「お、綺麗好きな男子はポイント高いよ?」
「綺麗好きってだけじゃモテないって俺自身が証明してしまってるけどな」
「そんなことないと思うけど」
「--っ」
蔦原の発言に俺は再び言葉を詰まらせる。
さらっととんでもないこというなこいつ。
「で、何する?」
「『何する?』ってお前な……。だから言っただろ。何もやることなんて無いって」
「ちょ、ちょっと私お手洗いお借りするね〜」
そう言って蔦原は逃げるように部屋から出ていった。
まあ行き当たりばったりなのは蔦原らしいと言えば蔦原らしいな。
それにしても本当に何をすればいいんだろうな。
家に来てから何をするかは蔦原任せだったが、その蔦原にも案が無いのであれば俺が考えるしかない。
さて、何をしようかな……。
そんなことを考えながら部屋を見渡し始めた瞬間、ドタドタと大きな足音が聞こえてきて俺の部屋扉が勢いよく開かれる。
「ねぇ、何この可愛い子⁉︎」
蔦原は廊下でばったりでくわしたらしい、この家に住むもう1人の住人を連れてきた。
「……はぁ。俺の妹しかいないだろ」
「お、お兄ちゃん……」
蔦原は俺の妹、染谷蒼の肩を掴みながら目を輝かせているが、その妹、蒼はというと俺に助けを求めるようにプルプルと震えながら目を潤ませていた。
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