第4-1話 仲のいい友達とすること
「お待たせ〜」
今日も蔦原と待ち合わせをしていた俺は毎度同じ集合時間の5分前である10時25分にシャクドに到着しており、それから10分が経過して集合時間から5分遅れて蔦原が到着した。
「今日も相変わらず元気だな」
「元気じゃないと毎日やってられないからね」
蔦原の言いたいことは理解できるが、俺には蔦原の様に毎日高いテンションで過ごすのは無理だろう。
元々根暗な人間だし、周囲に元気を振り撒くような人間になれる自信は無い。
「そうかもな」
「そうかもな、じゃなくて紅も元気出さないと」
「これでも今日は元気な方だけどな」
「え、それで?」
蔦原は、『死んだような顔してるけど?』といった表情で俺に視線を向ける。
蔦原は思ったことをそのまま言ってしまったのだろうが、失礼だぞそれは。
「死んだような顔で悪かったな」
「そ、そんなこと思ってないけど‼︎」
焦った素振りを見せた時点でお前の負けだぞ蔦原。
「はいはい。分かった分かった」
「それで、私が5分遅れてきたことには触れないの?」
「30分くらい遅れてこられれば流石に指摘するだろうけど5分なら指摘する必要もないだろ」
「指摘する人は指摘すると思うよ? 信頼度2%アップね」
「え、それだけで?」
「それだけじゃないよ。その5分が女の子にはとっても重要なの。それを軽視せずにそう言ってくれたんだから2%アップに値します」
たったそれだけでポイントが加算されることに驚きながらも、俺は話を続けた。
「そりゃよかった。それで今日は何を?」
「仲のいい友達とやることってなんだと思う?」
「おい、それ俺が友達少ないの分かって訊くいてるだろ」
「さあね〜。それで、仲のいい友達とすることと言えば?」
蔦原にも伝えたが俺は友達が少ない。というかいない。
なので、仲のいい友達とすることと訊かれても、経験がない以上想像で答えるしかないのである。
「……ゲーセン」
「それしか知らないのか君は‼︎」
「……テレビゲーム」
「いやそれゲームじゃん‼︎ って突っ込んだけどニアピンだよそれ」
「ニアピン?」
「そっ。ニアピン。仲のいい友達とすることって言えば、友達の家で遊ぶことでしょ‼︎」
「友達の家で遊ぶ……?」
それは完全に盲点だった。
何せ俺はこれまで友達を自分の家に上げたこともないし、友達の家に上がったこともないのだから。
「今絶対効果音で雷鳴ったでしょ」
「大嵐だったわ」
「まさか友達の家で遊んだり友達を家に招いたことがないとは言わせないよ?」
「いやだからそれ分かって言ってるだろ」
「ふふっ。それで、どうする? 紅が私の家にくるか、私が紅の家に行くか」
それは究極の2択だった。
蔦原の家には行ってみたい。学校1の超絶美少女の部屋なんて男子からすれば宝箱のようなものだ。
しかし、ハードルは高い。
平日の昼間なので両親が家にいる可能性は低いが、急に帰宅してきて鉢合わせるというのは漫画やアニメでも定番の展開である。
それならば、俺の家に来てもらった方がいいかというとそれも危険である。
俺の部屋には蔦原には見せたくない漫画やアニメのBDなんかがたんまりと存在しているからだ。
それに……。
「どうしたの? 浮かない顔してるけど」
「あ、いや……。実は俺妹がいるんだけど、妹も僕と同じく自宅警備員なんだよ」
俺の妹は僕より歴の長い自宅警備員だ。
俺と同じくいじめにあってからは自宅に引きこもっている。
兄妹揃っていじめられているのだから、いじめられている俺たち側に原因があるのかもしれないな。
今まで妹がいてその上妹もいじめられていたという事実はあまり人には言ってこなかったが、蔦原には伝えても問題ないだろう。
「そうなんだ。じゃあ紅の家にお邪魔するのは迷惑かな?」
「いや、恥ずかしがり屋だけど部屋から出てこないと思うし大丈夫。平日の昼間で両親も仕事でいないし」
「よし分かった‼︎ じゃあ今日は紅の家にお邪魔します‼︎」
こうして唐突に、蔦原が俺の家にやってくることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます